
さっきまで元気に遊んでいたのに、どうして…?
犬の飼い主さんに絶対に知っておいてもらいたい病気があります。
それが「胃捻転(いねんてん)」。
特に大型犬に多く見られるこの病気は、発症すると短時間で急変し、動物病院に運んでも死亡率は40~50%にもなる、大変恐ろしいものです。
もし、突然おなかがパンパンに膨らみ、苦しそうにしていたら、それは一刻を争う緊急事態のサインです。
今回は胃捻転の原因や初期症状、予防策までを分かりやすく解説します。
苦しむ愛犬に何もする術がない、なんて耐えられません。
大切な家族の命を守るために、ぜひ最後まで読んでください。
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犬にとって危険な胃捻転の原因とリスク要因
胃捻転(胃拡張捻転症候群)ってどんな病気?
胃捻転とは、何らかの原因で胃がパンパンに膨らんで(胃拡張)、その後に胃がねじれてしまう(胃捻転)状態[1]をいいます。
この時、周りの臓器が圧迫されたり血管などが胃と共に捻転(ねじれて向きが変わること)したりして、血液の循環を妨げてしまいます。
循環障害やショック症状を起こすこともあります。
犬・猫ともに発症し、特に大型犬に多いことが知られています。
おなかが膨らむなど、見た目で症状が分かりやすいですが、短時間のうちに進行して命を落としてしまうこともある、危険な病気です。
[1]博多犬猫医療センター 「犬の胃捻転について」
胃捻転が起きる原因は?
胃捻転が起こる原因は主に以下の3つです。
食後すぐの激しい運動
胃や腸は、がっちりと固定されている臓器ではありません。
食後すぐに運動すると、胃が揺れやすくなり、周囲の靭帯や組織が引っ張られ、回転しやすい状態になります。
さらに、胃捻転が起こると、食べたものやガスが胃の中で急速に膨張し、血流が遮断され、壊死やショック状態につながってしまうのです。
一気食い・早食い
ごはんを一気に早食いすると、一緒に大量の空気を飲み込んでしまいます。
すると、食べ物が胃の中で発酵し、ガスの発生によりおなかがパンパンになり、胃が回転しやすい状態になります。
水を大量に飲む
短時間で大量の水を飲むと、胃が一気に膨張します。
重くなった胃は揺れやすくなり、その状態で走ったりジャンプしたりすると胃がねじれやすくなります。
特に、食後のがぶ飲みは、食べ物が水分を吸収しやすくなるので注意が必要です。

- 胃の拡張や捻転が起こると、胃に分布する血管の血行が悪くなり、心臓に戻る血液量が減少します。
- 空気や食べ物が過剰にたまり、胃が風船のように膨らんでいきます。これが進行すると、胃が自らの重みと圧力で回転し始め、幽門(十二指腸につながる胃の出口)を含む部位がねじれることがあります。
- 胃の入口と幽門がねじれて塞がるため、胃の中に空気や液体がたまり続け、胃がさらに拡張します。
- 循環障害によって不整脈や血圧低下が起こり、敗血症によるショック症状や、胃および幽門周辺の臓器の壊死などが進行し、最悪の場合は死に至ることもあります。
博多犬猫医療センター 「犬の胃捻転について」
胃捻転のリスク要因:犬種、遺伝、年齢が関係する危険因子
どの犬種でもあり得るけれど、大型犬は特に注意
大型犬や胸が深く幅の狭い体型の犬種は、胃が広がりやすく、ねじれやすい傾向があります。
グレートデーン、ジャーマンシェパード、スタンダードプードル、ボルゾイ、セントバーナードなどが特にリスクが高いとされています[2]。
子犬のころから適切な食べ方を習慣づけましょう。(4章のまとめにも記載しています)
遺伝や体質による影響(胃の形状が関係?)
体質や、遺伝による要因も影響することがあります[3]。
元々、胃や腸を支える靭帯が弱い子の場合は、胃の可動域が大きくなります[4]。
また、胃捻転を経験したことがある血筋の犬は、発症しやすいとされています。
年齢による影響 成犬も、高齢犬も??
食欲旺盛な成犬は、元気な分勢いよく食べることもあり、食事中に大量の空気を飲み込みやすくなります。
また、高齢犬になると、犬の胃や消化器官を支える筋肉や靭帯が弱くなります。
そのため、胃の位置が安定せず、ねじれやすくなります。
また、消化機能が下がることで、ガスがたまりやすくなるのも原因の1つとなります。
[2]もりやま犬と猫の病院 「【知っておきたい!】胃拡張胃捻転症候群」
[3]ダイゴペットクリニック 「犬と猫の胃捻転について|吐きたくても吐けない様子が見られたらすぐに受診を」
[4]けいこくの森動物病院 「犬猫の胃拡張・胃捻転について」
胃捻転の症状と進行:早期発見・治療で命を救う
胃捻転の症状と進行:早期の治療が命を救う
胃捻転が起きてしまった場合は、発症後早いタイミングでの処置が重要となります。
できる限り、動物病院の受診をおすすめします。
ねじれた胃が自然に戻る可能性はほとんどありません。
自宅で様子をみることは避けましょう。
【胃捻転の症状】
症状 | おなかが膨らむ | 膨らんだ胃が大きな血管(後大静脈)を押しつぶし、循環障害を引き起こします。ただし、肋骨で抑えられて、膨らみが外見的に分からないこともあります |
粘膜(歯茎や舌の色)が青白い | 循環障害によるチアノーゼ症状が出ることがあります | |
苦しそうな呼吸をしている | 痛みや循環障害、膨らんだ胃による肺の圧迫などが原因で、呼吸が荒く速くなることがあります | |
何度もえずく | 嘔吐物が出る場合もありますが、嘔吐物が出ないのに吐きそうなしぐさ=「空嘔吐」を繰り返すこともあります。「嘔吐」よりも、空嘔吐は胃捻転・胃拡張の可能性が高い、特に危険なサインです。 | |
大量のよだれが出る | 嘔吐をしたいのにできないことと、胃が圧迫されることによって唾液が多くなり、大量のよだれが出ます |
さらに進行すると・・・
胃の壊死や腹膜炎が発生することがあります。
循環の異常によりショック症状になってぐったりしたり、呼吸困難症状に陥ったり、多臓器不全を起こすこともあります。
治療が遅れた場合、命を落とす恐れが大きくなります。
胃捻転を見逃さない!発見しにくい前兆と対処法
胃捻転の前兆を以下に記載していきます。
特に、食後の数時間(5~6時間以降が多い)は夜中に当たる時間なので発見しにくいのですが、これらの症状があった場合も胃捻転を疑い、すぐ動物病院に連れて行きましょう。
- なんとなく元気がなく、そわそわし、うろうろしている状態。
- 両方の前足を伸ばして、腰を上げ伏せのポーズをする。
- 食欲があり、よく食べ、水もよく飲んだが、その後元気なく落ち着かない。
- 背中を丸め、横になる。
- どこかが痛そうで、おなかを丸めて休むが、立ち上がる。
胃捻転は、連休中などいつもと違う過ごし方をして犬にストレスがかかったときや、夜に発生することが多いといわれます。
動物病院がお休みの時間に発症することもありますが、愛犬の命にかかわることです。
症状が見られた場合は、通常の診療時間を待たずに救急の動物病院等の早急な受診を強くおすすめします。

病院での緊急処置と手術の重要性・家でできることは?
飼い主としては、「応急処置として何かできないだろうか」と考えるかもしれません。
しかし、マッサージなど自宅での処置は行わず、まずは速やかに動物病院へ連れて行くことが最優先です。
ご自宅でできることとしては、胃への負担を避けるために水や食事を与えないこと、
そしてショック状態を防ぐために毛布などで体を保温することが挙げられます。
ただし、過度に温めすぎないよう注意してください。
病院で行われる処置(緊急手術・ガス抜き) 胃捻転の治療法
治療の第一段階として、点滴で全身の機能を安定させます。
その後、口から胃にチューブを挿入し、内部のガスを抜きます。
ただし、胃が捻転している場合はチューブが通らないことがあるため、その場合はおなかの外側から直接胃に針を刺し、ガスを抜く処置を行います。
捻転がなければ、症状の改善を確認しながら経過観察を行います。
一方、捻転がある場合は、できるだけ早く胃を正常な位置に戻す必要があります。
この際、開腹手術によって胃を元の形に整え、再び捻じれないように「胃固定術」を行います[5]。
「胃固定術」は、胃を腹壁に縫い付けて固定し、再発のリスクを軽減させる手術のことです。
[5]亀山動物病院 「犬の胃拡張・胃捻転」
手術後のケア
手術が早期に行われなかった場合は、手術自体が難しくなることもあります。
胃捻転は進行が早いため、血流が途絶えると短時間で組織が壊死してしまいます。
壊死が進むと、胃の一部を切除しなければならない場合もあり、手術の負担が大きくなります。
さらに、全身の状態が悪化すると、手術が成功しても回復が難しくなることがあります[6]。
手術ができたとしても、術後は以下のような点に注意が必要です。
消化器の回復
手術後、胃の機能が完全に回復するまでには時間がかかります。
胃が正常に働くようになるまで、少量ずつ食事を与える必要があり、過度な食事や急激な運動は避けるべきです。
合併症のリスク
手術には常に合併症のリスクがつきものです。
例えば、胃の固定が外れる場合や感染症のリスクがあるため、術後は十分なモニタリングが必要です。
退院後のケア
家でのケアも大切です。また、手術後の再発を防ぐために、定期的なフォローアップが必要です。
退院後も食事のタイミングや内容、運動量に注意しましょう。
胃固定手術を受けた場合、再捻転のリスクは減りますが、固定が外れる可能性もあるため、継続的な管理が求められます。
[6]こざわ犬猫病院 「胃捻転 について」

まとめ:愛犬の健康を守るためにできること
この病気は、どんなに気をつけても起こる時には起こります。
しかし、予防策を講じることでリスクを減らすことができます。
愛犬の健康を守るために、日頃の生活習慣を見直してみましょう。
食事の取らせ方を見直す
1日1食の食生活や、早く食べることをやめさせましょう。
また、ご飯の時にだけお水を与えると、一度に大量に飲むことになるので、いつでも飲めるようにしておくと良いでしょう。
食器の位置は低くしたり、早食い防止食器や知育おもちゃを使う
嚥下(えんげ)障害(食べ物をうまく飲み込めなくなる病気)等の理由がなければ、食器は床に置いて与えましょう[7]。
また、中に突起があってわざと食べづらく工夫がされている食器や、穴の中にフードを詰めて、遊びながら少しずつ食べられるおもちゃもあります。
一気に食べてしまう犬の場合は、このような早食い防止の食器やおもちゃを使うのも良いでしょう。
[7]三鷹獣医科グループ 武蔵野動物・救急救命センター 「犬の胃捻転・拡張症候群(特に大型犬)について」

食後は安静に
食事前に散歩に行ければよいのですが、それができない場合は、食後はしばらく安静にしていましょう。
胃の中の食べ物は、食後3~4時間くらいで胃から腸へと移動します。
食後1~2時間くらいまでは胃が特に膨らむタイミングですから、運動は控えましょう。
スポーツを楽しみたいときは、食後4時間以上経ってからにしておきましょう。
極力、不安・ストレス・興奮を避けるようにする
飼い主から「臆病」「気が小さい」と判断されている犬は、元気な性格の犬と比べると、胃拡張・胃捻転の発生率が約2.5倍という報告があります。
ストレスは胃腸の動きを乱し、胃の動きが鈍くなったり、ガスがたまりやすくなったりするのです。
普段からおとなしく怖がりな性格の犬は注意して観察し、早期発見に努めることが大切です。
あらかじめ「胃の固定」の手術を受けておく
これは、この病気の最も効果的な予防法かもしれません。
たとえ胃拡張は起こっても、胃が固定してあれば捻転が起こりにくくなります。
例えば、不妊手術などで麻酔をかける際に、同時に胃固定術を受けておくのも一つの方法です。
特に、大型犬やリスクの高い犬種では、事前の予防策として検討する価値があるでしょう。
