雪原に佇む黒と茶色のチベタンマスティフ

犬の祖先はオオカミだといわれていますが、その見た目は犬種によってさまざま。
中には、まるでライオンのような見た目をしている犬もいるのです!

それが、「チベタンマスティフ」
2022年に発売されたゲーム『ポケットモンスタースカーレット・バイオレット』で初登場した、「マフィティフ」というキャラクターのモデルともいわれている犬です。

その見た目は一度見たらきっと忘れられないほど大きく、モフモフしています。
なんと、「世界一高い犬」という異名を持つほど一大ブームを巻き起こしたことも。
しかしその人気の裏側には、悲しい現実がありました。

この記事では、チベタンマスティフの特徴や性格といった魅力だけではなく、注意点なども詳しく解説します。

チベタンマスティフの特徴

青空の下で、首に赤いモフモフのリードをつけて立っている黒と茶色のチベタンマスティフ

チベタンマスティフは力強くがっしりとした大柄の体格と、ふさふさとした被毛が特徴的な超大型犬です。
超大型犬は成犬になるまで約1年半〜2年かかるといわれていますが、チベタンマスティフは雌で2~3年、雄で最低4年の年月を要します。

体格

チベタンマスティフは熊のようにもライオンのようにも見える、とにかく大きな体を持っています。

【チベタンマスティフの体高と体重】

性別体高体重
66cm〜64〜82kg
100kgを超える場合も
61cm〜

体高とは、地面から首の後ろ部分までを垂直に測った時の長さのこと。

犬の体高についてわかりやすく示したイラスト

試しに身長151cmの筆者が犬と同じように四つ這いになってみると…

著者が四つん這いになり自身の体高を調べている。

私の体高は57cmでした。
チベタンマスティフ雌に一歩及ばず……。

また、体重64〜82kgは、人でいうと身長170cm〜195cmの人の適正体重です。
チベタンマスティフがいかに大きな犬なのか想像していただけましたでしょうか。

被毛

チベタンマスティフの被毛は、太くてしっかりとしたオーバーコートの下に短く柔らかなアンダーコートが生えている「ダブルコート」です。

そして最大の特徴ともいえるのが首周りの被毛です。
まさにライオンのたてがみのような毛がふさふさと生えていますが、この首周りの被毛には、長くて豊富な毛で覆われている「獅子型」と、毛が短くボリュームも少ない「虎型」の2つのタイプがあります。

【チベタンマスティフの被毛タイプ比較】

獅子型
(長くて豊富な毛で覆われている)
虎型
(毛が短くボリュームも少ない)
鮮やかな緑の芝生の上に座って満足そうな様子を見せる茶色のチベタンマスティフ。雪に前足を突っ込みながらも堂々と立っている黒いチベタンマスティフ

毛色は「深い黒」「明るい茶色」「黒と薄い茶色」などさまざまです。

チベタンマスティフってどんな性格?

外交人女性と黒と茶色のチベタンマスティフが抱き合って顔を寄せている様子。

家族やテリトリーへの意識が強い傾向があります。
家族には忠実ですが、テリトリー内に他の人や犬が立ち入るのを嫌がることも。

また、独立心や警戒心も強いため、社会化のトレーニングが重要となるでしょう。
とても体が大きく力も強い犬種なので、万が一の事故が起きないように、しっかりとしつけを行う必要もあります

一方で、信頼している相手には温和で優しい一面もあります。
子犬のうちからトレーニングをして、良き家族の一員として馴染めるようにしてあげましょう。

チベタンマスティフの歴史

茶色のチベタンマスティフの首周りの毛が逆立ち、まるでライオンの鬣のようになっている様子。

チベタンマスティフは、チベット原産の犬種です。
ヒマラヤ山脈に暮らす遊牧民の作業犬や、チベットにある僧院の護衛犬として活躍していました。

その歴史はとても古く、古代ギリシャの哲学者であるアリストテレス(紀元前384〜322年)やマルコ・ポーロ(1254~1324年)などが執筆したさまざまな歴史的文書に、チベタンマスティフについての記述が残っています。
モンゴル帝国の初代皇帝チンギスハンは、軍事遠征の際3万頭ものチベタンマスティフを引き連れていたとも……!

護衛犬や軍用犬に採用されていた歴史からも、その勇敢さや警戒心の強さがうかがえますね。

チベタンマスティフの仲間

チベタンマスティフは、現存するマスティフ犬種の祖先であると考えられています。
ここでは、純粋犬種の犬籍登録や血統書の発行を行なっている一般社団法人ジャパンケネルクラブに掲載されている6種のマスティフ犬をご紹介します[1]

ワン!ポイント 「マスティフ」とは

現在の英語の基となったアングロサクソン語の「マスティ」という単語(「パワフル」の意味)が由来といわれています。

[1]一般社団法人ジャパンケネルクラブ「チベタン・マスティフ

マスティフ

芝生の上でマスティフの親子が並んで座っている様子。

イギリス原産のマスティフ。
軍用犬としても活躍しましたが、その勇敢さから一時期猛獣として取り扱われた時代もあったといわれています。

体高は雄が75cm〜、雌が70cm〜で、がっしりした骨格が特徴です。

ライオンや熊と闘技させられていたという歴史もあり、力が非常に強い犬種ですが、主人に対しては落ち着きがあり愛情深い一面も。
一方で他人に対しては警戒心が強く、他の犬にも闘争心を持つ傾向があります。

スパニッシュマスティフ

芝生の上に座っている茶色のスパニッシュマスティフが少し不機嫌そうな様子でこちらを見ている様子。

スパニッシュマスティフはその名の通り、スペイン原産の犬種です。
広大な土地や農場の護衛犬として活躍した歴史があります。

体高は、雄が約80cm〜、雌が約75cm〜。

主人に対しては愛情深く従順ですが、害獣や見知らぬ人を相手にした際には毅然とした態度を取る、とても賢く勇敢な犬種です。

ナポリタンマスティフ

黒のナポリタンマスティフの横顔をアップで写した写真。

ナポリタンマスティフはイタリア原産の犬種です。

体高は雄が65cm~、雌が60cm〜で、チベタンマスティフと大体同じか少し小さいぐらいですね。

性格は落ち着きがあり、家族みんなに友好的です。
自分の領地とその住人を守る利口さがあり、現在でも家や牧場の番犬として活躍しています。

ピレニアンマスティフ

青空の下で黒と白のピレニアンマスティフが静かにこちらを見つめている様子。

スペイン原産のピレニアンマスティフは、フランスとスペインの国境にまたがるピレネー山脈の山奥で発展しました。
絶滅の危機を乗り越え、近年新たに注目を集めていますが、今もなお稀少な犬種です。

体高は雄が約81cm〜、雌が約75cm〜。
その体格を生かし、オオカミや熊と戦う護衛犬として活躍してきました。

優しく知的であると同時に、見知らぬ人にも物怖じしない気高さを持っています。

ブルマスティフ

芝生の上に立っている茶色のブルマスティフがどこかを見つめている様子。

狩猟地に忍び込む密猟者が横行していた19世紀のイギリスで、番犬として作出されたのがブルマスティフです。
名前からも分かるように、勇敢でどう猛な「ブルドッグ」と、力とスピードに長けている「マスティフ」を交配することで誕生しました。

体高は雄が63.5cm~、雌が61cm〜。
どんな状況でも恐れない威勢の良さと勇敢さを持つ優れた番犬です。

ボルドーマスティフ

たんぽぽが咲いている芝生の上で茶色のボルドーマスティフが舌を出しながらこちらを見ている様子。

ボルドーマスティフはフランス原産の犬種です。
この犬種はイノシシなど大きな獣を捕らえるために用いられたり、家や家畜を守る番犬として用いられたりしていました。

体高は雄が60cm〜、雌が58cm~とマスティフ犬種の中では小さい方ですが、主人をよく慕い、用心深く忠実に護衛を行います。

ブームとその影響

さびれたペットショップで売れ残ってしまった茶色のチベタンマスティフが悲しんでいる様子。

チベタンマスティフの原産であるチベットが位置する中国では、2010年頃から空前のペットブームが巻き起こりました。
2012年にはわずか337億元だったペット産業の市場規模が、2016年には1000億元を超え、2017年には1470億元、2018年には1708億元に達するなど急上昇。

このペットブームの中、中国の富裕層の間ではチベタンマスティフが大きな注目を集めます。
チベタンマスティフがライオンと戦う動画がSNSにアップされると人気が爆発。
ボディガードとして帯同させることがステータスとなり、富裕層にとって経済力の象徴となりました。

その結果、高額な価格でチベタンマスティフの売買が行われるようになり、2014年には約2億円で取引が成立した事例も!
これが、「世界一高い犬」という異名の由来ですね。
一時は北京郊外に次々と繁殖施設が作られ、2万頭以上が市場に出されたともいわれています。

しかし、偽物の流通や供給過多のため、価格が暴落。
元々の警戒心の強さとしつけ不足から咬傷事故も数多く報告され、ブームは廃れていきました。

行き場を失ったチベタンマスティフの中には、残酷な方法で処理される、食用の肉になってしまうなどあまりにも悲しくひどい結末を迎えている子もいます。
また、処分するのにも費用がかかるという理由で、捨てられてしまった子も後を断ちません。
野犬となってしまったチベタンマスティフは伝染病を広めてしまったり、絶滅の恐れがあるとされているユキヒョウなど野生の動物を襲ったり、人までも襲ったりしてしまうなど深刻な問題に発展しているのです。

チベタンマスティフを飼う時の注意点

ぼろぼろになって少し剥げてしまっている黄色の注意アイコン。

特に大きなモフモフ好きの方は
「ぜひ飼ってみたい!」
と思ったかもしれません。

でも、ちょっとストップ!
チベタンマスティフは「飼いやすい犬」とは決していえないのが現実。
ここではチベタンマスティフの注意点を解説します。

十分なスペースが必要

まず、とても大きなチベタンマスティフには十分なスペースが必要不可欠です。

都市部で飼うのは難しいでしょう。
田舎のような広い敷地や、人通りの少ない場所が確保できるかなどの確認が必要です。

・室内でサークルを設置してその中で生活をさせる
・庭で軽い運動をさせる
という他の犬種と同じイメージでは飼うことはできません。

金銭的余裕が必要

市販のペット用品ではサイズや強度が合わないこともあり、特別注文が必要になる可能性もあるので、費用がかさむ傾向にあります。

食費のほか、超大型犬特有の通院費用やシニア犬となった際の介護費用が高額となることも。
また、お出かけには自家用車が必須となるでしょう。

十分なしつけが必要

力が強く、体も大きな超大型犬なので、しっかりとしたしつけが必要です。

チベタンマスティフは成犬になるまでの期間も長いため、子犬の時期に根気強くしつけを行っておきましょう。
・散歩中引っ張らないように飼い主さんと歩調を合わせて歩く
・名前を呼んだら飼い主さんの元へ戻ってくる
・噛み癖や吠え癖をなくす
・自分よりも小さな犬や飼い主さん以外の人に対する振る舞い方
など徹底してください。

それでもチベタンマスティフの気質上、他人や他の犬に警戒心を剥き出しにする恐れもあるので、外出時などは通行人と一定の距離を保ちながら、常に注意を払うようにしましょう。

まとめ

チベタンマスティフは、ライオンのような圧倒的な存在感と古い歴史を持つ犬種です。
信頼関係を築いた飼い主さんには優しく忠実ですが、他人への警戒心も強いため社会化のトレーニングが欠かせません。

「世界一高い犬」として注目を浴び、数多くの人々を魅了したチベタンマスティフ。
しかしその裏側で、多くの犬が捨てられ、社会問題にまで発展したという悲しい現実も忘れてはなりません。
一時のブームが大きな悲劇を生んだように、犬を飼うということは命に対する大きな責任を伴う行為です。
その迫力や珍しさに魅力を感じる方も多いでしょうが、実際には飼育環境や費用、しつけの難しさなど、十分な覚悟が必要になります。

本当にその犬種と暮らせるのか
最後の一瞬まで責任を持てるのか
それを考えることが、犬と暮らす第一歩といえるかもしれません。

この記事を通じて、チベタンマスティフの魅力と現実を知り、犬と人がより良く共存するための一助となれば幸いです。

 この記事の監修者

鮎川 多絵 (愛玩動物飼養管理士2級・ライター)

東京都出身。1986年10月生まれ。趣味は映画鑑賞・1人旅・散歩・動物スケッチ。
家族は保護犬1匹保護猫2匹(+空から見守る黒うさぎのピンキー)。

犬と私
子供の時からイヌ科動物が大好きでした。戸川幸夫氏の「牙王」で狼犬に憧れ、シートン動物記で「オオカミ王ロボ」に胸を打たれました。特に大きな犬のゆったりとした雄姿には目を奪われます。保護犬と保護猫の飼育経験から、動物関連の社会問題、災害時のペット同伴避難について意識を向けています。

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資格
愛玩動物飼養管理士2級 防災コーディネーター 学芸員 登録日本語教員

この記事を書いた人

本間ユミノ

新潟県出身。2児の母。食べることと寝ること、読書が好き。動かないことも動くことも好き。モットーは「夜を乗りこなす」
第49期 宣伝会議 編集・ライター講座修了。
小学生の頃に読んだ、漫画『動物のお医者さん』に出てくるチョビ(主人公が飼っているシベリアン・ハスキー)の可愛さに虜になる。以来、好きな犬種はシベリアン・ハスキー。

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