
テレビでも時折、その活躍が紹介される警察犬。りりしい姿で任務にあたる姿はとてもかっこいいですよね。
しかし、警察犬になれるのは、一体どんな犬種なのでしょうか?
「イメージではジャーマン・シェパードやドーベルマンといった精悍な大型犬が思い浮かぶけど、トイプードルの警察犬が誕生した、という話も前に聞いたことがあるし・・・」という方もいらっしゃるかと思います。
警察犬の話を聞くことは多いけど、考えてみれば知らないことが意外と多かった、という方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、警察犬の役割から主要な犬種、さらには近年注目される小型犬まで、知っているようで知らない警察犬について、様々な面から詳しく解説します。
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警察犬は、どんな仕事をしているの?

そもそも、警察犬は普段、どんな仕事をしているのでしょうか?
警察犬の武器となるのは、その優れた嗅覚と身体能力。
彼らは人間の数千倍から1億倍とも言われる嗅覚[1]をもち、人間の犯罪捜査や警備、人命救助など多岐にわたる警察活動をサポートします。
その主な仕事は以下の通りです。
| 仕事 | 詳細 |
|---|---|
| 足跡追及 | 手袋や靴など、犯人が残した遺留品の匂いを追いかけ、追跡します。 |
| 捜索 | 迷子や行方不明者を一定の地域内から探し出します。 地方によっては救助犬としての仕事を任されることもあります。 |
| 臭気選別 | 犯罪現場に残された遺留品と容疑者の匂いを嗅ぎ分け、一致するか調べます。 選別結果は証拠として裁判でも認められることがあります。 |
| 警戒 | パトロールや護送に同行し、不審者の警戒や追跡、逃走阻止を行います。 |
ちなみに、優れた嗅覚を発揮するのは警察犬だけではありません。
人間を手伝う犬のことを「使役犬」と呼びますが、中でも「探知犬」と呼ばれる犬たちは嗅覚を使って様々なものを探知するのが仕事です。
日本では、麻薬を持ち込んでいないか検知する「麻薬探知犬[2]」のほか、爆発物や伝染病を嗅ぎ分ける「爆発物探知犬[3]」や「検疫探知犬[4]」、また近年では紙幣の不正持ち出しを防ぐ「紙幣探知犬」などが活躍しています。
犬の優れた嗅覚は、その祖先であるオオカミが嗅覚を頼りに獲物を追跡していたことに由来します。
実際に嗅覚にまつわる体の部位を比較すると、犬は人間のそれを遥かに上回ることが分かります。
・嗅上皮(鼻腔にあり、匂いを感知する嗅細胞が存在する)・・・150cm²(ヒトは3~4cm²)
・嗅細胞の数・・・推定2億5千万~30億個(ヒトは500万個)
・嗅球(嗅神経が集まる脳の部位)・・・中型犬で6g(ヒトは約1.5g。脳の大きさをそろえて比較すると、ヒトの40倍以上の大きさ)
また犬には「匂いの階層化」という能力があり、複数の匂いが混ざり合っていても、それぞれを嗅ぎ分けることができるといわれています。
そのため、警察犬や麻薬探知犬のように、犯人や麻薬の匂いだけを感知反応することができるのです。
[1]林良博「犬の嗅覚はなぜ超高性能なのか」
[2]税関「麻薬探知犬」
[3]日本警備犬協会「爆発物探知犬とは」
[4]動物検疫所「動植物検疫探知犬について」
[5]税関「紙幣探知犬(カレンシードッグ)の導入について」
「直轄警察犬」と「嘱託警察犬」:二つの活動形態

一口に「警察犬」と呼ばれる犬たちにも、実は2つの種類があることをご存じですか?
警察犬は、各都道府県の警察が訓練・飼育しているか、それとも一般の人が管理・訓練をしているかによって異なります。
前者を直轄警察犬、後者を嘱託警察犬と言います。
直轄警察犬
各都道府県の警察が直接飼育し、警察官の訓練士によって訓練・管理される警察犬です。
訓練所などで警察犬として訓練された犬を警察が買い取り、運用します。
千葉県警によると令和7年1月1日時点では全国で153頭の直轄警察犬が活躍しています。
嘱託警察犬
民間の訓練所や一般家庭で飼育・訓練され、年に1回実施される警察犬の審査会に合格して認定を受ける犬です。
警察からの要請を受けて出動し、普段は訓練士や飼い主と共に生活しています。
千葉県警によると、令和7年1月1日時点で全国には1,057頭の嘱託警察犬がいます。
どんな犬種が警察犬になれるの?

「直轄警察犬」は、犬種が指定されている
各都道府県警のもとで飼育される直轄警察犬と、民間の訓練所で飼育される嘱託警察犬の2種類が存在する警察犬。
それではどのような犬が、警察犬として向いているのでしょうか?
実は警察犬種の普及啓発・改良増殖を通じて、社会福祉に貢献することを目的とする「日本警察犬協会」では、現在以下の7犬種が警察犬として公認されています。
それぞれの犬種について、画像付きで紹介します!
ジャーマン・シェパード・ドッグ
日本の警察犬で最も多く採用されている代表的な犬種です。
ドイツ原産で、従順で賢く、勇敢で警戒心が強い性格を持ち、優れた訓練性能を兼ね備えています。

ラブラドール・レトリーバー
温厚で友好的な性格でありながら、優れた嗅覚と高い学習能力を持つ賢い犬種です。
盲導犬としても有名ですが、警察犬としてもその能力を発揮します。

ゴールデン・レトリーバー
イギリス原産の大型犬で、温厚で友好的、そして服従性と作業意欲に優れています。
介助犬や盲導犬としても活躍する多才な犬種です。

ドーベルマン
ドイツ原産で、筋肉質で優れた運動能力を持ちます。
見た目から怖いイメージを持たれがちですが、実際は落ち着きがあり、パートナーに忠実で賢い性格です。

コリー
スコットランド原産の牧羊犬として知られていますが、知能の高さから警察犬として採用されています。
優雅なスタイルがペットとしても人気の犬種です。

エアデール・テリア
イギリス原産の中型犬で、賢く活発、そして学習意欲も高い犬種です。
イギリス・ドイツではじめて警察犬として採用された歴史を持ちます。

ボクサー
ドイツ原産の大型犬で、筋肉質な体格を持ち非常に活発です。
また、穏やかで落ち着きがありながらも勇敢で、パートナーに忠実で訓練しやすい性格です。


ドイツ原産の犬種が多いような気がする・・・
こうしてみると、警察犬に適しているとされる犬種にはドイツ原産が多いように思えます。
実は警察犬の制度は1896年、ドイツのヒルデスハイム市警察で始まったとされており、その後ベルギー、イギリスと制度が広がったという経緯があります。
警察犬になる犬種にドイツ原産が多いのは、そうした歴史的背景もあるのかもしれません。
意外な活躍!指定犬種以外の嘱託警察犬

日本で飼われている約200犬種のうち、直轄警察犬に適しているのは7犬種に限られています。
しかし、嘱託警察犬としては、日本警察犬協会指定の7犬種以外にも、様々な犬種が活躍しています。
今までにパピヨンやミニチュア・シュナウザー、トイプードル、チワワ、柴犬といった小型犬を含めた、様々な犬種が嘱託警察犬になっています。
2025年には嘱託警察犬のトイプードルの「アンズ」が行方不明の男性を発見するという成果をあげ、茨木県警から4回目の表彰という栄誉にあずかっています。
小型犬ならではのメリット
指定犬種以外の警察犬が登場し始めたのはここ10年ほど。
その背景には大型犬の飼育コストといったシビアな理由もありますが、その一方で指定犬種以外、とりわけ小型犬には警察犬として独自のメリットがあるとされています。
歩幅が狭い
小型犬の歩幅は大型犬の歩幅に比べてはるかに狭く、そのため同じ距離の間に呼吸する回数が大型犬よりも多くなります。
細かく息を吸って・吐いてを繰り返すので、細かく的確に匂いを嗅ぎ分けることができます。
プライバシーへの配慮
大型犬が捜索活動を行うと周囲の注目を集めやすいですが、小型犬であれば目立つことなく、行方不明者を捜索できます。
認知症の方や、警察にお世話になっていると知られたくないという声に、小型犬は応えることができるのです。
独自の強みを持って活躍する小型警察犬の活躍は、今後さらに増えていきそうですね。
先述の通り、警察犬は捜査時の頼もしい仲間として海外でも採用されています。
英語では警察犬や軍用犬などの使役犬はK-9(ケーナイン、canine(犬)という単語から)と呼ばれており、日本の警察犬同様パトロールや探知業務に従事するなど、法執行機関に不可欠の存在です。
犬種としては日本でもおなじみのジャーマン・シェパードやラブラドール・レトリーバー、そのほかにベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノア、バセット・ハウンド、ブラッドハウンドなどが活躍しているようです。
もし、うちの子を警察犬にしたいなら

ここまでの記事を読んで、「実際、警察犬ってどうやって任命されるんだろう…」と考えた方、もしかしたら「愛犬を警察犬として活躍させたい!」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
先述の通り直轄警察犬は各都道府県の警察が直接購入・飼育するため、一般の飼い主さんは飼い犬を警察犬にしたい場合、嘱託警察犬を目指すことになります。
ここでは、どのような犬が警察犬に向いているのか、また嘱託警察犬はどのような選考を通じて任命されるのかについて解説します!
警察犬に向いているワンちゃんの性格は?
警察犬には高い能力が求められます。
そのためただ賢いだけでなく、特殊な任務を遂行できるような性格特性が重要となります。
アメリカの学術誌「Animals」に2023年に掲載された「成功したバイオセキュリティ探知犬の特性を定義する」という論文[6]では、探知犬の適性に関する調査結果が報告されています。
「バイオセキュリティ探知犬」とは、空港や港などで外来動植物の国内への持ち込みを防ぐために、違法な物品の匂いを探知する訓練を受けた犬のことです。
警察犬も探知犬と同様、臭気選別といった様々な作業で自身の嗅覚を活用します。
論文ではバイオセキュリティ探知犬の適正に関する調査を行っていますが、これらの性質は警察犬にも当てはまると言えそうです。
この調査では、まず犬のハンドラー(ここでは、探知犬とペアを組んで検査を行う人のこと)やトレーナーへのインタビューを行い、高評価につながると考えられる行動特性を特定しました。
次に、実際に探知犬として活動する36頭の犬を、これらの特性に基づいて評価し、その探知能力との関係を分析しています。
その結果、以下の7つの特性が重要であることが分かりました。
- 探索のモチベーション(SearchMotivation):探索に対する強い意欲。
- 情動安定性(EmotionalStability):仕事中や非番中のストレスや不安がないこと。
- 探索時の興奮(SearchArousal):探索中の興奮度合い。
- 食に対するモチベーション(FoodMotivation):食べ物に対する強い意欲。
- 遊びに対するモチベーション(PlayMotivation):遊びに対する強い意欲。
- 探索時の独立性(SearchIndependence):ハンドラーに依存せず、自立して探索を行う能力。
- 探索時の集中力(SearchFocus):注意散漫にならず、探索に集中する能力。
特に、「探索のモチベーション」と「探索時の興奮」が高い犬は、優れた探知能力を持つと評価されやすいことが明らかになりました。
これら二つが重要であることはイメージしやすいですが、「遊びに対するモチベーション」も重要であるというのは意外ですね。
愛犬がこれらの特性を多く持っていると感じたら、嘱託警察犬を目指すための訓練を検討してみるのも良いかもしれません。
[6]Ariella Y. Moser ,Wendy Y. Brown, Pauleen Bennett, Peta S. Taylor, Bethany Wilson and Paul McGreevy. (2023)「Defining the Characteristics of Successful Biosecurity Scent Detection Dogs」
嘱託警察犬になるまでの道のり
それでは、適正を見出された犬はどのようにして嘱託警察犬になるのでしょうか。
その道のりには、大きく分けて「訓練」と「選考」の二つのステップがあります。
(ちなみに警視庁と大阪府警察は直轄警察犬のみで運用しており、嘱託警察犬を導入していません。)
訓練の開始
嘱託警察犬を目指すにあたり、その第一歩として訓練所で訓練士から指導を受けるのが一般的です。
公益社団法人日本警察犬協会が公認する訓練所をはじめ、全国に多数のドッグスクールが存在します。
訓練所では、嘱託警察犬として活躍するために必要な専門科目を学びます。
行方不明者の捜索や犯人の追跡、遺留品の発見といった警察犬の業務に必要な能力を養うことを目的として、以下のような訓練を行います。
- 基礎訓練:基本の動作として、「停座(おすわり)」「伏臥(ふせ)」「脚側停座(指導者の左側でおすわり)」「脚側行進(指導者の左側について歩く)」「休止(待機)」「招呼(こい)」「立止(立って待つ)」「持来(持ってくる)」「障害飛越(障害物を飛び越える)」などを教える
- 臭気選別訓練:基礎訓練からのステップアップとして、嗅覚を生かして正しい選別を行うための訓練を行う
- 足跡追及訓練:臭気選別訓練同様、匂いを手がかりに経路をたどるための訓練を行う
「臭気選別」と「足跡追及」の2科目の選考を指定する警察が多いため、こうした訓練体系となっているようです。
基礎訓練ののち、どちらかのコースへ進むことで警察犬としての能力をさらに伸ばしていきます。
各都道府県警察による最終選考
十分な訓練を積んだ後、いよいよ最終的な選考に臨みます。
嘱託警察犬は、各都道府県警察が毎年開催する審査会で選考・指定されます。
この審査会では、訓練で培った「足跡追及」や「臭気選別」などの能力を評価されます。
審査会で優秀な成績を収め、警察からの指定を受けることができれば、晴れて嘱託警察犬として正式に任命されるのです。
嘱託警察犬になった後の生活
厳しい選考を経て嘱託警察犬に任命された犬は直轄警察犬と同様、警察からの要請を受けて訓練士とともに事件現場に出動し、その能力を発揮します。
普段は一般の家庭犬としての生活を送りますが、いざという時の出動に備え、飼い主である指導手と日々の訓練を欠かしません。
資格の有効期限を1年間に限っている警察もあるため、嘱託警察犬になった後も継続的な訓練が必須なのです。
また日本警察犬協会では、全国の嘱託警察犬が日頃の訓練の成果を競う「全日本嘱託警察犬競技大会」を年に一度開催しています。
この大会は足跡追及と臭気選別の2科目で成績を競い、嘱託警察犬としての技術や能力をさらに高める場ともなっています。
まとめ

この記事では知っているようで知らない「警察犬」について、仕事内容から警察犬になれる・向いている犬種、そして嘱託警察犬になるまでの道のりまで、さまざまなポイントで解説しました。
警察犬には「直轄警察犬」と「嘱託警察犬」の2種類がおり、一般の飼い主が愛犬を警察犬にしたい場合は、嘱託警察犬を目指すことになります。
嘱託警察犬の場合、ジャーマン・シェパードやラブラドール・レトリーバーといった日本警察犬協会による指定犬種だけでなく、トイプードルやチワワといった小型犬も活躍しています。
彼らには小型犬独自の強みがあるほか、その適性は「探索へのモチベーション」といった性格特性に大きく左右されることが判明しています。
また嘱託警察犬になるためには、まず公認訓練所で専門的な訓練を受け、各道府県警察が開催する審査会に合格する必要があります。
任命された後は普段は家庭犬として過ごし、警察からの要請を受けた際には事件現場に出動するという生活を送ります。
愛犬が飼い主の最良のパートナーであるように、警察犬もまた私たちの日々の暮らしを守る「最良のパートナー」です。
この記事を通じて、警察犬についての理解を深めていただければとおもいます。







