
「盲導犬ってラブラドール・レトリバー(以下ラブラドール)ばかり見るけど、なんでだろう?」街で盲導犬を見かけたとき、そう思ったことはありませんか。
実は、盲導犬にラブラドールが多いのには明確な理由があります。
犬種だけでなく、性格・体格、そして「賢い不服従」と呼ばれる特別な能力が関係しているのです。
本記事では、盲導犬に向いている犬と向かない犬、ラブラドールが選ばれる理由、合格率やキャリアチェンジの実態まで、わかりやすく解説します。
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まず知っておきたい、盲導犬の役割と現状
盲導犬のいまを知る 数・費用・育成のリアル
盲導犬は視覚障害者の安全な歩行を支援する「身体障害者補助犬」です。
補助犬法による法的保護を受けており、レストランや公共施設にも同伴できます。
日本国内の実働盲導犬数は2025年現在で768頭。
全国で考えると少ないような気もしますが、介助犬約60頭、聴導犬52頭と比べると圧倒的に多く、補助犬の中で最も認知度が高い存在です。
しかし、やはり視覚障害者約31万人に対しては大きく不足しており、希望しても平均2〜3年待つ必要があります。
1頭の育成には約300万円以上、育成期間は約2年、合格率は約30%という厳しい現実もあるのです。
盲導犬の具体的な仕事内容と、「賢い不服従」
盲導犬は単なる「目の代わり」ではありません。
ハーネス(胴輪)を装着し、使用者と一緒に歩きながら安全なルートを確保する、高度な判断力を持ったパートナーです。
主な仕事は、歩道上の障害物を避けて誘導すること、階段や段差の手前で止まって知らせること、交差点で方向を示すこと、そして危険な場所では進まず使用者を守ること。
そして、特に重要なのが「賢い不服従」という能力です。
使用者が「前へ進め」と指示を出しても、目の前に車が来ていれば盲導犬は進みません。
指示に従うだけでなく、状況を判断して使用者の安全を最優先する、これが盲導犬の最も高度な能力なのです。
盲導犬の献身性を示す感動的な事例もあります。2019年に徳島県で起きた事故では、線路横断中に電車が接近した際、盲導犬が使用者を線路外へ押し出して救い、自らは犠牲になりました。交通事故の場面でも、車が使用者に向かって突進してきた際、盲導犬が身をていして使用者を守り、自らが犠牲になった事例もあります。これらは訓練の結果というより、使用者との深い絆から生まれる本能的な行動です。盲導犬は使用者を家族として認識し、命がけで守るパートナーなのです。

盲導犬に選ばれる犬種の傾向とラブラドールが主役の理由
主要犬種データと比較
日本の盲導犬は「ラブラドール・レトリバー」が約80~90%を占めています。
体高や体重はユーザーの歩行に適した大きさで、穏やかかつ協調性の高い性格が際立っています。
ゴールデン・レトリバーも明るく社交的でわずかに選ばれていますが、体格や安定性ではラブラドールが優位です。
シェパードやプードルなども選ばれますが、近年は極少数となっています。
| 犬種名 | 日本国内シェア(推定) | 体格の目安 | 主な性格 | |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | ラブラドール・レトリバー | 約80~90% | 体高55~65cm体重25~35kg | 穏やか協調性がある従順学習欲がある |
| 2位 | ゴールデン・レトリバー | 8~12% | 体高54~61cm体重24~34kg | 明るい好奇心豊か社交的 |
| 3位 | ジャーマン・シェパード | 微少(近年減少傾向) | 体高60~65cm体重30~40kg | 賢い警戒心がある忠誠心がある |
| 4位 | スタンダード・プードル | ごく少数(主に海外) | 体高45~60cm体重18~30kg | 知能が高い運動能力があるフレンドリー |
| 5位 | **F1ミックス(第一世代ミックス)等 | 2~5% | 交雑(ラブ×ゴールデンなど) | 両者の長所 |
**純血種同士をかけ合わせて生まれたミックス犬(「F」 は「Filial(子世代)」の略で、「1」 は「第一世代」を意味します)
ラブラドールが選ばれる理由
① 体格と誘導力:歩行時の伝達がしっかりしており、ハーネスとの相性も良好
② 性格の安定:温厚で攻撃性が低く、誰にでも落ち着いて接する
③ 学習能力:訓練や新しい環境の適応が早く、テストにも強い
④ 集中力:雑踏や騒音のなかでも冷静に仕事に打ち込める
⑤ 社会性:一般的な環境で静かに待機し、他者や他犬にもフレンドリー
対して、他犬種が少ない理由は…
① 小型犬は体格不足(動きを伝えにくい、誘導力不足)
② 警戒心が強い犬種(例:シェパードやドーベルマン)は攻撃的に見えやすく、盲導犬には向いていない
③ 狩猟犬・テリア系は追跡本能や独立心が強く、訓練に集中し続けるのが苦手
④ 世界的にもレトリバー系が主流(アメリカや欧州でも傾向は変わらず)

訓練と適性評価 盲導犬に適した犬の条件
盲導犬の候補犬は、訓練前に「パピーウォーカー期」を経て、訓練施設で厳しい適性評価を受けます。
北海道盲導犬協会などでは、13の大項目・計64の評価項目(警戒心、人や動物への攻撃性、注意力、感受性、歩行時の集中力、意欲など)をもとに約3週間かけて選抜が行われ、合格した犬だけが本格訓練に進みます。
こうした基準の多くは、実はラブラドールが自然に備えている特性でもあります。
フレンドリーで人懐っこく、初対面の相手にも安心感を与え、社会的な場面でも穏やかに振る舞える。
そんな性格が、盲導犬に最も必要とされる「安定性」につながっています。
ラブラドールは体格・性格・集中力のすべてにおいて「盲導犬の理想像」に最も近い犬種。
そのため、どんな時代になっても主要犬種として選ばれ続けているのです。
盲導犬になるまで ラブラドールの訓練とキャリア
誕生から認定までの流れ 盲導犬訓練のステップと課題
盲導犬の育成は、誕生から2年近い長いプロセスを経て行われます。
パピーウォーカー期(0〜1歳)は、一般家庭で愛情いっぱいに育てられ、人と暮らすことの楽しさや社会の音・環境に慣れる時期です。
その後、1歳を過ぎると訓練施設に戻り、本格的な訓練が始まります。
ハーネス歩行や障害物回避、段差の認識など、街中で安全に歩くためのスキルを徹底的に学びます。
最終的には、使用者との相性確認や実地テストを経て「盲導犬」として認定されます。
しかし、ここまで到達できる犬は全体の約3割であり、多くの候補犬が途中で「キャリアチェンジ」を迎えます。
理由の多くは、臆病さや集中力不足、音への過敏反応、健康上の問題などです。
けれども、これは「不合格」ではなく、犬の個性に合わせた次のステップを見つけるプロセスでもあります。
キャリアチェンジ犬の新しい道 人と生きるもう一つの形
実際、ラブラドールは訓練の理解が早く、人と行動することを楽しめるため、他犬種に比べて合格率がやや高い傾向があります。
訓練士たちは「ラブラドールは、人と一緒にいることを幸せに感じる犬」と口をそろえます。
それこそが、盲導犬として長く活躍できる最大の理由です。
一方、キャリアチェンジ犬(盲導犬訓練を卒業した犬)は、家庭犬・PR犬・介助犬など新しい役割で人と暮らす存在として活躍します。
人懐っこく穏やかな性格ゆえに、新しい家族にすぐ馴染み、多くの人に癒しを与えるラブラドール。
訓練を経た犬たちは、盲導犬にならなくても「人と共に生きる使命」をしっかり果たしているのです。

盲導犬と出会ったら私たちにできること
正しい接し方
横断歩道で盲導犬と使用者を見かけたときは、同じように待ちながら、静かに見守ることが大切です。
もし困っている様子があれば、「お手伝いしましょうか」と一声かけてください。
逆に、下記3つの行動は控えましょう。
・盲導犬に勝手に触ること
集中して仕事をしているため、注意がそれてしまいます
・盲導犬に声をかけること
使用者への誘導に集中できなくなり、思わぬ危険につながることがあります
・食べ物を与えること
日々の訓練や行動のルールが崩れてしまう可能性があります
当然のことかもしれませんが、これらのルールを守ることで、盲導犬が安全に仕事できる環境が保たれます。
盲導犬育成への支援
盲導犬の育成には1頭あたり約300万円もの費用がかかるため、継続的な支援が非常に重要です。
日本には全国に11の盲導犬育成団体があり、それぞれの団体で寄付を受け付けています。
・公益財団法人 日本盲導犬協会 https://www.moudouken.net/support/kojin/donation/
・社会福祉法人 日本ライトハウス(盲導犬訓練所) https://www.guidedog-lighthouse.jp/kifu.html
・公益財団法人 アイメイト協会 https://www.eyemate.org/doc/support/
その他、地域ごとに盲導犬協会があります。詳しくは「盲導犬協会 ○○(お住まいの地域)」で検索してみてください。以下も、各協会HPに情報が掲載されています
【パピーウォーカーへの参加】 子犬の時期(約1歳まで)を預かり育て、社会化の基盤を作る重要な役割を担います。
【リタイア犬の引き取り】 約10歳で引退する盲導犬を家族として迎えることができます。訓練を受けているため穏やかで飼いやすく、人気が高いです。

まとめ: 人のために働いてくれる盲導犬の生涯
盲導犬の寿命は、一般に「仕事によるストレスから短命ではないか」と思われがちですが、実際はどうなのでしょう。
日本身体障害者補助犬学会による447頭のデータ分析では、盲導犬全体の平均寿命は12歳11カ月で、特にラブラドールでは13歳3カ月、ゴールデン・レトリバーは11歳5カ月と報告されています。
この平均は家庭犬(純血種)の平均寿命と比較しても遜色なく、むしろ最近の傾向では「盲導犬の方がやや長寿」といえる年もあります。
実際、2000年代以降の死亡年齢データでは、15歳を超えて長寿だったケースも28%に及びます。
これは協会による徹底した健康管理とユーザーによる日々のケア、定期的な獣医診断、安定した環境によるものと考えられています。
命を懸けて人を守る盲導犬たち。
街で出会ったら、感謝の気持ちを胸に、そっと見守ることが私たちにできる一番の優しさです。








