
ゴリラ(ニシローランドゴリラ)の血液型はすべてB型、という話を聞いたことはありますか?
私たち人間に血液型があるように、血液を持つ多くの生き物にも血液型があります。
そして、それはワンちゃんも同じ。
しかし、人間のように「A・B・AB・O」という分けかたはされていません。
普段あまり気にかけることのない「犬の血液型」ですが、実は人間と同様とても重要な情報です。
大量に出血したときなどに、血液型によって輸血可能かどうかが分かれる場合があるためです。
犬の血液型について知っておくことで、飼い犬にもしものことがあっても慌てずに対処できることがあるかもしれません。
本記事では、そもそも血液型ってなに?どうやって分類しているの?といった基本的な疑問から、犬の血液型の特徴、そして飼い犬の血液型に興味を持った方向けに飼い犬の血液型を調べる方法まで解説します。
ぜひ最後までご覧ください!
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そもそも、「血液型」って?

体を流れる血液の中には、体に酸素を運ぶ役割を持つ赤血球と、感染症やがんなどの様々な検査に用いられる血清が含まれています[1]。
赤血球の表面にある物質の“抗原”と、血清内の赤血球と反応する物質の“抗体”によって分類されるのが、いわゆる「ABO血液型」です。
その人の血液がどの抗原・抗体を持っているか、によってA型・B型・AB型・O型が決まります。
ABO血液型 | 抗原(赤血球) | 抗体(血清) | 日本人の割合 |
---|---|---|---|
A型 | A抗原 | 抗B | 40% |
B型 | B抗原 | 抗A | 20% |
O型 | 抗原なし | 抗Aと抗B | 30% |
AB型 | A抗原とB抗原 | 抗体なし | 10% |
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会「血液型について」より著者作成
A抗体と抗A、B抗体と抗Bはそれぞれ対応しており、抗体に対応する抗原を持つ血液が体に入ると、体内の抗体は入ってきた血液を攻撃して病気を防ぎます。
しかし、その際に体内の赤血球が大量に破壊されてしまうなどの重い副作用(輸血反応)が出てしまうので、輸血には同じ血液型のものを用いるのが大原則なのです[2]。
このほかにもD抗原の有無によって分けられる「Rh血液型」や、「MNS血液型」「Lewis血液型」など、人間には様々な血液型が存在します。
通常の輸血では、そのなかでもABO血液型・Rh血液型が同じであることを確認したうえで行われるのが基本です[3]。
[1]独立行政法人 国立病院機構 東名古屋病院「血清検査」
[2]地方独立行政法人 東京都立病院機構 東京都立駒込病院「輸血と血液型の関係~違う血液型はなぜ輸血できないのか?~」
[3]厚生労働省「医療事故防止のための要点と対策 輸血」
ちなみに血液型の割合は国ごとに差があるほか、日本国内でも地域ごとに偏りが見られます。
株式会社ユーグレナが2022年に発表した調査[4]によると、A型の人の割合が多い県は関西や中国、九州など西日本に多く、反対にB型の人の割合が多い県は東北など東日本に多いということが分かっています。
[4]株式会社ユーグレナ「遺伝子解析データをもとに「血液型 都道府県ランキング」を発表!」
犬の血液型の種類
分類方法「DEA式」について

それでは、犬の血液型はどのようにして分類されているのでしょうか?
犬の血液型も人間と同様、赤血球の抗原による分類方法が広く用いられています。
「DEA(Dog Erythrocyte Antigen/犬赤血球抗原)式」と呼ばれる分類方法です。
一方で、人間のABO血液型がA抗原・B抗原と2種類の抗原を参照するのに対し、犬のDEAは13種類以上あるといわれています。
まだ研究段階にあり、解明しきれていないこともあるDEAですが、現在国際的に認知されているものは以下の8種類です。
- DEA1.1
- DEA1.2
- DEA3
- DEA4
- DEA5
- DEA6
- DEA7
- DEA8
DEA式ではそれぞれの抗原を、その犬が持っているか(+)持っていないか(-)によって血液型を分けます。
そのため、犬の血液型は「このワンちゃんはDEA1.1(+)、DEA1.2(+)、DEA3(-)…」というような言い表し方になるのです。
全部で4パターンのABO血液型と比べて、かなり複雑になっていますね。
また、人間の血液にA・B抗原以外の抗原があるように、犬の血液には他にDal、Kai1、Kai2といった抗原があります。
犬種ごとに違う!血液型の割合

犬の血液型の割合について調査した論文は世界各国で発表されています。
人間の血液型の割合について国や地域でばらつきがあるように、犬の抗原の有無の割合、つまり血液型の割合は地域や犬種ごとに異なるのです。
例えば、2000年1月から2020年10月にかけてカリフォルニア州にいた6469頭の犬の血液を調査した結果[5]、サンプル数が20例以上得られた50犬種のうちバーニーズ・マウンテン・ドッグ、ダックスフント、ミニチュア・シュナウザーなどの8犬種の90%がDEA1(+)、一方でボクサー、イングリッシュ・ブルドッグ、フラットコーテッド・レトリーバー、フレンチ・ブルドッグの4犬種の90%がDEA(-)であることが分かりました。
[5]Bank et al.「Prevalence of dog erythrocyte antigen 1 in a population of dogs tested in California」
輸血の際に重要になる「DEA1.1」

人間の輸血の際にはABO血液型・Rh血液型が重要となる、というのは先程お伝えしたとおりですが、これは、血液中の抗体が輸血された血液の抗原と反応して副作用が生じてしまうことが原因です。
同じく犬の場合も、輸血された血液によっては副反応が出る場合があります。
なかでも重要になるのがDEA1.1の抗原。
DEAのうち最も抗原性が高く(輸血反応が起きやすく)、重篤な反応が出てしまう可能性があります[6]。
とはいえ、初回の輸血で大きな反応が出てしまうことはあまりありません。
生まれた時から抗体を持ちうる人間とは異なり、犬は生来抗体を持っているわけではないためです。
しかしながら、DEA1.1(+)の血液を輸血したことがあるDEA1.1(-)の犬の血液にはDEA1.1(+)に対する抗体が産生されるほか、DEA1.1(+)の犬を妊娠したことのあるDEA1.1(-)の犬、咬傷の経験がある犬の血液にも抗体が作られている可能性があります。
このような犬たちにDEA1.1(+)の血液を輸血してしまうと、体内の血液が破壊されてしまい(急性溶血反応といいます)、血尿や黄疸、急性腎障害、貧血や呼吸困難など命に関わる症状が出る可能性があります。
そのため犬の輸血の際にはDEA1.1が確認されるほか、輸血を行う際には事前に血液をもらう犬と提供する犬の血液を少しずつ混ぜ合わせ、異変が起きないか肉眼で確認するクロスマッチ試験が行われます。
[6]l長者原動物病院「ワンちゃんネコちゃんにも血液型があるんです。輸血の際に重要な情報~血液型~」
飼い犬の血液型を知っておくべき「ワケ」

では、飼い犬の血液型を調べることでどのようなメリットがあるのでしょうか?
調べることをおすすめする理由を3つ、ご紹介します。
緊急時にスピーディに治療を受けられるように
先述の通り輸血の際に必要な情報となることが、飼い犬の血液型を知っておくことをおすすめする最大の理由です。
輸血が必要になるのは大量に出血した場合の他にも、免疫介在性貧血などの血液そのものが不足する場合や、血小板減少症などの血小板が不足するもの、また低蛋白血症など多岐にわたります。
いざというときに迅速な治療を受けられるよう、飼い犬の血液型を調べておくことは重要です。
輸血ボランティアとして、他の犬を救えるように
犬の輸血を支えるしくみは、人間の輸血ように迅速に行えるほどの大規模なものはまだ確立していません。
そのため、輸血が必要な場合は動物病院で飼われている供血犬から血液を採取したり、あるいはあらかじめ飼い主さんに呼び掛けて、飼い犬を輸血が必要になった際の供血犬に登録してもらう、というような体制が取られていることがあります。
飼い犬を通っている動物病院のドナーとして登録することで、いざ輸血が必要になったときに飼い犬の血液を分けてあげられます。
病院によっては健康診断が無料になったり、フードをプレゼントしてくれたりと、お礼を用意されているところも。
特に大型犬は一度に採決できる量が小型犬よりも多いので、供血犬に登録することでより多くの命を救ってあげられる可能性があるのです。
新生児溶血を予防できるように
母犬がDEA1.1(-)、生まれてきた子犬がDEA1.1(+)のとき、何らかの原因で母犬の血液がDEA1.1(+)に対する抗体を持っていると、子犬が母犬の初乳を飲んで抗体が子犬の体内に吸収されることで、子犬の血液を攻撃する溶血が起こります。これは「新生児溶血」と呼ばれています。
新生児溶血は父犬がDEA1.1(+)、母犬がDEA1.1(-)の場合に起こることがあります。
飼い犬の血液型を調べておくことで、そのような組み合わせの交配を避けられるほか、もしこの組み合わせで出産した場合も人口哺乳で育てるなど、新生児溶血を防ぐための対策も取ることができます。
犬の血液型検査が可能な場所

「じゃあ、うちの子の血液型ってどうやって調べればいいの?」という飼い主さんのために、ここでは血液型検査をする方法をいくつかご紹介します。
結論から言うと、犬の血液型は
①動物病院で血液型の検査キットを使用するか、
②動物病院で採血し、検査センターで検査を依頼することで調べることができます。
どちらも少量の血液を採取することで検査が可能です。
①の場合15分から20分程度で検査結果が判明し、②の場合だと数日かかることがあります。
上記2種類の検査はDEA1.1の有無を調べるものが一般的であり、他の血液型を調べる場合はこれらほど簡単ではありませんが、実際に輸血を行う場合は必ずクロスマッチテストを行い副作用のリスクをなるべく減らすようにしています。
いずれの方法も病気になったときに調べると正確な検査結果が出ない場合があるため、あらかじめ健康診断の際に血液型検査を実施するのがよいでしょう。
まとめ

犬の血液型について、人間との共通点や異なる点などを分かっていただけたでしょぅか。
人間の血液型と同じように、犬も血液の中の抗原によって血液型が決まります。
分類の際にはDEAという方式が用いられることが多く、これによって犬の血液型は、人間のものと比べて複雑になっています。
また、人間の輸血の際に血液型が重要となるように、犬の輸血の際にも、血液型は重要な情報となります。
そのほかにも交配する際などに血液型を確認することがあるため、飼い犬の血液型を調べておくと様々な場面で役に立つでしょう。
飼い犬の血液型を知りたい場合、まずは動物病院に相談するとよいでしょう。
この記事が、飼い主の皆様がおうちのワンちゃんの血液型に興味を持つきっかけとなれば幸いです。