
日本に住む私たちにとって、地震は避けて通れない自然災害です。もしもの時、愛する家族の一員である愛犬をどう守り、どう避難生活を乗り切るか、飼い主のみなさんは具体的なイメージを持てているでしょうか?
「備蓄品の中に自分の水はあっても、愛犬の水は入っていなかった」「避難所で大型犬を受け入れてもらえなかった」そのような事態にならないよう、しっかりと知識をつけて備える必要があります。
この記事では、必要な日頃の備え、地震発生直後の対応、避難時のポイントを解説します。愛犬との幸せを守るために、今からできる準備を始めましょう。
この記事を書いた人
工藤てん
東京育ち。赤提灯系のお店が好きなOL。全国各地に美味しいものを食べ飲みに行くのが趣味です。
散歩中のわんことすれ違うとき、名前を妄想している。
犬との避難では何が困る?実際の事例

環境省のガイドラインでは、これまでの災害で実際にあったペットに関する問題として以下を挙げています。[1]
【災害時には】
- ペットの受入れ可能な避難所がどこにあるのかわからなかった
- 家屋の倒壊や倒れた家具によりペットが逃げられず死亡した
- 床一面にガラスが飛散し、人もペットも足に怪我を負った
【避難先では】
- 避難してしばらく、人の支援物資はあるが、ペットフードの支援はなかった
- 避難所で犬が吠えて迷惑をかけるため、やむを得ず車中での避難になった
- 糞の放置や毛の飛散などが原因で他の避難者とトラブルとなった
- 犬がケージになれていないため、過度なストレスを与えてしまった
[1]引用元:環境省『災害、あなたとペットは大丈夫? 人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>』より一部抜粋
万が一のときに困らないために、日頃から準備をしておきましょう。
事前準備
備蓄品の管理では、人間の分と別で犬の分を考慮する必要があります。特に水やフードは最低でも5日分、できれば7日分以上を備蓄しましょう。
| カテゴリー | 備蓄品(チェックリスト) | 注意点・ポイント |
|---|---|---|
| 食料・水 | フード(賞味期限の長いもの) 水(人間用とは別に確保) 携帯用食器・給水ボトル | 最低5日分、できれば7日分。水は特に大量に消費します。フードは災害時でも入手しやすい大容量のドライフードが基本。 |
| 衛生用品 | トイレシート・排泄物処理袋 ウェットティッシュ・消臭スプレー 清掃用具 | 衛生管理は避難所生活の可否に関わります。特に大型犬の排泄量は多いため、トイレシートは多めに。 |
| 移動 | リード(予備も含む)・首輪/ハーネス(予備) ケージ・クレート(日常から慣れさせておく) 長めのリード(1.5m以上) | 長めのリードは必須。避難先で一時的に安全な場所につないでおく際に役立ちます。クレートは犬が安心できる場所として日常的に使用を。 |
| 常備品 | 薬(かかりつけ医の診断書コピーも) 接種証明書・健康手帳のコピー 愛犬の写真(迷子対策)・マイクロチップ情報 | 薬は余裕をもって備蓄。大型犬は持病があると薬の量が多いため、特に注意が必要です。 |
| その他 | タオル・ブランケット おもちゃ(ストレス軽減用) | 犬が安心できるにおいのついたものがあると◎。 |
地震発生直後に飼い主がとるべき行動
地震が発生したら、まずは「飼い主が無事であること」が愛犬を守る絶対条件です。
自宅にいる場合
①自分自身の安全確保
まずは飼い主自身が家具の下敷きにならないよう身を守ります。飼い主が負傷すれば、愛犬を連れて逃げることはできません。
②リードをつける
揺れが収まったら、すぐにリードを装着します。パニックになった犬は、普段大人しくても突発的に走り出す(脱走する)可能性があります。特に大型犬の場合、制御不能になると危険です。
③安全な場所に誘導する
家具の転倒やガラスの飛散がない場所へ移動させます。普段から「ハウス」のコマンドでクレートに入る訓練ができていれば、落下物から犬を守ることができます。
④避難経路の確保
ドアや窓を開けて出口を確保します。その後、靴を履き(ガラス片対策)、火の元を確認します。
⑤持ち物の確認
事前に準備した「犬用防災セット」と「人間用防災セット」を持ち出し、避難の準備をします。
外出中の場合
愛犬が自宅で留守番をしている場合
無理に帰宅しない
外出先で被災した場合、慌てて帰宅しようとすると二次災害に巻き込まれる恐れがあります。まずは自身の安全を確保し、状況を把握してください。
- 見守りカメラの活用:可能であればスマートフォンの防災アプリや自宅のペットカメラで安否を確認します。
- ご近所との連携:日頃から近所の人とコミュニケーションを取り、「災害時に家に帰れない場合、犬の様子を見てほしい」と頼める関係を作っておくことが重要です。
愛犬と散歩中の場合
- 建物から離れる:ブロック塀、ガラス張りのビル、看板の下などから離れ、広い公園や広場へ移動します。
- リードを短く持つ:犬が驚いて車道に飛び出さないよう、リードを短くしっかりと持ちます。
- 落ち着かせる:飼い主の動揺は犬に伝わります。優しく声をかけ、抱き寄せられるサイズなら抱えて安心させます。飼い主がいつも通りの態度で、落ち着いた口調・声色で接するようにしましょう。
地震発生時に犬と同行避難するには
環境省は「同行避難(一緒に避難所まで行くこと)」を推奨していますが、これは「同伴避難(同じ室内で過ごすこと)」とは異なります。小型犬であればキャリーケースなどに入れて避難所の一部で過ごせるケースもありますが、大型犬との避難は格段にハードルが高くなります。
大型犬オーナー特有の課題と対策
課題1:避難所への同行避難の壁
- 現実:多くの避難所では、衛生面やアレルギー、スペースの問題から、大型犬は避難所内の居住スペースへの受け入れが難しい場合がほとんどです。
- 対策:避難所敷地内の専用の係留スペースや、一時的な車中泊の可能性を想定しておく必要があります。自治体や地域の動物愛護センターに、どの避難所でペット専用スペースが用意されているか事前に確認しましょう。
課題2:空間の確保と他者への配慮
- 現実:大型犬は広いスペースを必要とします。また、見た目の威圧感や吠え声など、犬嫌いな人への影響が小型犬よりも大きくなりがちです。
- 対策:係留スペースでは、できる限り他の避難者から距離を取り、クレートや目隠しで犬が落ち着ける空間を作ります。普段から無駄吠えをさせないしつけを徹底しましょう。
課題3:暑さへの弱さと水の大量消費
- 現実:大型犬は体温調節が苦手な犬種が多く、車中泊や夏場の避難では熱中症のリスクが極めて高くなります。水分の必要量も多いです。
- 対策:避難時には冷却シートや扇風機など暑さ対策グッズも忘れずに。車中泊の場合は窓を開けて換気する、日陰に駐車するなど、熱中症対策を最優先とします。
課題4:長期間の運動不足とストレス
- 現実:避難生活が長期化すると、大型犬は十分な運動ができず、ストレスが溜まって体調を崩しやすくなります。
- 対策:避難所の規則を遵守しつつ、許可された範囲で散歩や軽い運動をさせましょう。排泄も指定された場所でのみ行い、使用後は徹底的に清掃して環境美化に努めることが、愛犬の居場所を守ることにつながります。
コラム:犬は地震を予知する?
「地震の前に犬が吠え始めた」「ソワソワして落ち着かなかった」といった話を聞いたことがある人も多いでしょう。科学的に「犬が地震を予知できる」と断定する証拠はまだありませんが、犬が地震前に異常行動を示す事例は少なくありません(例:突然吠え続ける、唸る、飼い主にしがみつく、隠れる、外へ出たがる、通常と異なる場所を見つめる など)。有力な説として、人間には聞こえない地中の微細な振動や、人間には感じられない気圧や電磁波の変化を犬が敏感に察知しているというものがあります。犬の聴覚は人間の数万倍鋭く、わずかな異常を捉える能力に長けています。[2]
今すぐ確認!事前準備リスト
地震対策は、モノを買うだけでは不十分です。「情報収集」と「しつけ」の準備も進めましょう。
自治体のハザードマップと避難場所の確認
- 自宅周辺の危険箇所を把握します。
- 指定避難所におけるペット受け入れ体制を自治体に問い合わせて確認します。
- ペットを連れて行く「同行避難場所」と、ペットを一時的に預ける「預かり場所」の両方を確認します。
迷子対策の徹底
- マイクロチップの装着と登録:令和4年6月からブリーダーやペットショップ等の犬猫への装着が義務化されました。装着済みでも、環境省のデータベースへの情報登録・変更手続きが済んでいるか必ず確認してください。[3]
- 迷子札:首輪には、飼い主の電話番号を書いた迷子札を常につけておきます。
- ケージに慣らす訓練をしておきましょう。
[3]参考:環境省「東日本大震災における被災動物対応記録集」
基本的なしつけの習得
- 「ハウス(クレート)」:狭い場所でもリラックスして長時間過ごせるようにします。
- 「待て・おいで」:リードが離れてしまった時や、飛び出し防止に必須です。
- 「トイレ」:指定された場所、あるいはペットシーツの上で排泄できるようにします。外でしか排泄できない子は、災害時に我慢して膀胱炎になるリスクがあるため、室内(シーツ)でもできるよう練習しましょう。
- 「無駄吠え防止」:他人の気配や物音に過剰反応しないよう、トレーニングを継続します。
健康管理
- ワクチン接種・狂犬病予防注射:多くの動物が集まる避難所では感染症リスクが高まります。証明書のコピーは防災セットに入れましょう。
- ノミ・ダニ予防:衛生環境が悪化する災害時こそ、寄生虫対策は重要です。
- 不妊・去勢手術:発情期のストレスやトラブル(鳴き声、予期せぬ繁殖)を防ぎます。
シミュレーション(家族会議)
- 地震が起きたら「誰が犬を確保するか」「誰がフードを持ち出すか」役割分担を決めます。
- 実際にハザードマップを見て、犬を連れて避難所まで歩く訓練(散歩)をしてみましょう。「この道はブロック塀が危ない」「ここは大型犬とすれ違えない」などの気付きが得られます。
- かかりつけ医・預け先との情報共有:動物病院の連絡先を控えておき、災害時にも対応可能な病院があるか確認します。
まとめ
- 十分な備蓄:自分の水とは別に、愛犬用の水とフードを最低5日分確保する。
- 迷子・健康対策:マイクロチップやワクチンの徹底で、はぐれた時の再会率を高める。
- しつけとシミュレーション:自治体の情報を確認し、犬との避難経路・避難所での過ごし方を具体的にイメージする。
愛犬のことを守ることができるのは、飼い主であるあなたのほかにいません。犬と一緒に暮らす幸せのために、万が一の時も愛する家族を守れるよう、今日からできる備えを始めましょう。


