
動物病院に行ったときなどに、よく推奨される「毎日の歯磨き」。
愛犬の健康のために大切だとわかっていても、実際に毎日行うのはハードルが高いですよね。
しかし、本当に毎日完璧に磨かなければ意味がないのでしょうか?
「仕事や家事で忙しくて毎日は無理だけど、なんとかケアしてあげたい」
「歯磨きガムをあげているから大丈夫だと思っていたけど、汚れが落ちているか不安・・・」
という方もいらっしゃるかと思います。
歯磨きの重要性は聞くことが多いけど、その具体的な頻度や代替法の効果については意外と知らなかった、という方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、獣医学的な根拠に基づいた「現実的な歯磨きの頻度」から、ガムやシートといった代替グッズの正しい活用法まで、知っているようで知らない犬のデンタルケアについて、様々な面から詳しく解説します。
この記事を書いた人
笹島 智之
神奈川生まれ、いろんな国育ち。大学ではメディアについて勉強し、現在はそれを活かせるような仕事をしている。趣味は読書、飲酒、音楽を聴くこと、そして知らない道を歩くこと。
実家でトイプードルを飼っている。毛色はアプリコット。ソファで横になっていると、脚にできた隙間にすっぽり収まるように寝にくるのがかわいい。
愛犬の歯磨き、みんな毎日できているの?

そもそも、世の中の飼い主さんたちは、本当に毎日歯磨きができているのでしょうか?
「うちの子の歯磨きは大切だとわかっているけれど、嫌がるからどうしてもできない・・・」
そんなふうに自分を責めてしまっている方もいらっしゃるかもしれません。
実は、ある動物病院の独自のアンケートによると、飼い主様の約半数(43%)が「歯磨きを嫌がるのでなかなかできていない」と回答しています。
理想通りにいかず悩んでいるのは、決してあなただけではないのです。
しかしかわいいワンちゃんの健康のために、こまめに歯磨きをした方が良いのも事実。
本記事では飼い犬の歯磨きにお悩みの飼い主さんに向けて、無理せずçを保つ方法を解説します。
「毎日」が理想!だけど、「3日に1回」が許容範囲な理由

お家で飼い犬のデンタルケアを行う理由。
それは、歯に残った食べかすなどが口内の細菌と混ざりあって作られる「歯垢(プラーク)」を取り除くためです。
歯垢は放置しておくと唾液と結合し、「歯石」に変わります。
後述しますが、歯石は口内だけでなく、全身の健康を脅かす可能性があります。
この歯石を作らないため、定期的な歯磨きや口内ケアが必要とされるのです。
もちろん犬も人間と同じように、可能であれば毎日行うのがベストであることは変わりません。
しかし、もし毎日のケアが難しいのであれば、飼い犬の健康を守るために「最低でも週に3回(2〜3日に1回)」の歯磨きを行うと良いでしょう。
なぜ「週3回」なのか?ここでは、犬の歯磨きのペースについて解説します。
歯垢が歯石に変わるまでの「タイムリミット」
最低でも週に3回以上の口内ケアが必要な理由。
それは、歯垢が歯石に変化するスピードが速いことに起因しています。
犬の歯についた歯垢が、取れにくい「歯石」に変わるまでのスピードをご存知でしょうか?
実は、人間の歯垢が歯石になるまでには約20日かかりますが、犬の場合はとても早く、なんとわずか3〜5日で石灰化し、歯石になってしまいます。
裏を返せば、たとえ毎日のデンタルケアが難しかったとしても、歯石になる前の「3日以内」に歯垢をリセットできれば、比較的軽い処置で済むことが多い、ということになります。

一方で一度歯石になってしまうと、残念ながら歯ブラシで取り除くことはできません。
除去するには、動物病院で全身麻酔をかけた処置(スケーリング)が必要になってしまいます。
費用は歯石の規模にもよりますが、抜歯なし・軽度の歯石の場合でも、麻酔代も含めて20,000円以上かかってしまうことが多いようです。
だからこそ、歯垢が歯石として固まってしまう前の「3日以内」にブラシで落とすことが、ケアの重要な分かれ道となるのです。
犬の歯石は、どうしてそんなに早くできるの?
犬の歯垢が人間よりも圧倒的に早く歯石になってしまうのは、唾液の性質の違いに由来します。
人間の唾液は弱酸性ですが、犬の唾液はアルカリ性が強いため、石灰化(カルシウムなどが沈着して石になること)が進みやすいのです。
実は、歯石のもとになる歯垢と、虫歯や歯周病には密接な関係があります。
歯垢には虫歯菌や歯周病菌が含まれており、これらが症状を発症させるのです。
歯石自体が症状に関与することはないものの、そのデコボコした表面に歯垢が溜まることによって、症状の発症・悪化のリスクが高くなります。
犬は人間と違い、「虫歯」にはなりにくいという特徴があります。
虫歯菌は酸性の環境で増殖しやすく、反対にアルカリ性の犬の口の中では繁殖しにくいのです。
その一方で歯石、そして歯周病の原因となる歯周病菌はアルカリ性の環境で活発になります。
そのため犬は「虫歯にはなりにくいが、歯周病には非常になりやすい」動物といえます。
なぜ歯磨きが必要?放置すると怖い「歯周病」

「でも、たまに忘れちゃっても大丈夫でしょ?」
そう思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし先述の通り、犬は歯周病には非常になりやすい動物です。3歳以上の犬の、実に約80%が歯周病にかかっているとも言われています。
ここでは歯周病が引き起こす症状について、特に深刻なものをいくつか紹介します。
口腔内の症状
歯周病と聞いて最もイメージしやすいのが、歯や歯茎などの口内に関する症状なのではないでしょうか。
歯周病は、口腔内細菌が歯周ポケットから侵入し、歯を支える歯槽骨や歯根を溶かしてしまう進行性の病気です。
放っておくと、このような影響が生じます。
顎骨の損傷と骨折
歯槽骨が溶けてしまうと、顎の骨が薄くなり顎骨骨折を引き起こす危険性があります。
口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)
上顎の犬歯の根元は鼻腔の近くまで伸びているため、歯周病によって口腔と鼻腔を隔てる骨が溶かされ、貫通してしまう口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)を引き起こすことがあります。
これにより、慢性的に鼻炎や鼻出血が発症するようになります。
重度の炎症と歯の喪失
進行すると歯が抜け落ちたり、炎症が頬に広がり顔に穴が開いてしまったり(根尖歯周膿瘍)、重症化することがあります。
口臭の悪化
歯石内で細菌が繁殖することで、強い口臭やよだれの増加を引き起こします。
全身症状
実は、歯周病は全身にも悪影響を及ぼしうる病気です。細菌が血流に乗って全身に広がることで、ほかの組織や臓器にも影響が出る危険性があります。
心臓病
歯周病菌が血管に侵入し全身を巡ることで、心臓病の発症リスクを高めることが知られています。
ある調査によると、お口のトラブルを罹患した犬は健康な犬に比べて、翌年の心臓病の罹患率が1.7倍になることが示されています。
腎臓病
心臓病と同様に、歯周病菌が腎臓に運ばれ、腎臓病などの原因となる可能性があります。
お口のトラブルを持つ犬は、健康な犬と比較して腎臓病の罹患率が3.5倍に上昇するという分析結果もあります。
肝臓病・糖尿病の悪化
歯周病菌は肝臓などの臓器にも影響を及ぼし、肝臓病や糖尿病の悪化を引き起こす可能性があります。
敗血症
口腔内細菌が血液中に入り込み重症化すると、敗血症という全身性の重篤な疾患に移行し、命に関わることもあります。
歯周病を持つすべての犬がこうなる、というわけではありませんが、それでも口内ケアをしないことの危険性をご理解いただけたのではないでしょうか。

もちろん人間も、歯磨きを欠かしてはいけませんよ
放置していると様々な病気のリスクが上昇する犬の歯周病ですが、人間も同様に歯周病にとてもなりやすいです。
2001年には、「人類史上最も感染者数の多い感染症」としてギネス世界記録に登録されています。
狭心症・心筋梗塞、脳梗塞や糖尿病など、人間も犬と同じように歯周病により全身に悪影響が起こり得ます。
これを読んでいる皆様もぜひ、毎日の歯磨きを心がけていただけますと幸いです。
もし、歯ブラシが苦手なら

ここまでの記事を読んで、
「口内ケアって大事なんだ、3日に1回なら頑張れそう!」と思った方もいれば、
「放置すると大変なことは分かったけど・・・。うちは歯ブラシ自体を嫌がるから、ガムで代用したい」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
そのような方のために、ここでは「歯磨きガム」や「歯磨きシート」といった歯磨きの代替グッズについて解説します!
「ガムだけ」ケアの落とし穴
「歯ブラシは無理だから、歯磨きガムをあげています」という方も多いと思います。
しかし、残念ながら「ガムだけ」では歯周病は完全に防げません。
歯周病の原因菌が潜んでいるのは、歯と歯茎の間にある溝、「歯周ポケット」です。
ガムやシートでは、この歯周ポケットの中まで掃除することはできないのです。
ガムを噛むときに使う奥歯には一定の効果がありますが、あまり噛まない前歯や犬歯には歯垢除去効果がほとんど見られない、という研究結果もあります。
歯磨きガムにも効果はありますが、メインはあくまで週3回の歯ブラシとし、できない日の補助ケアとしてガムやシートを活用するのがベターだと言えそうです。

選ぶなら、「お墨付き」のガムを
ガムを選ぶときは、パッケージの裏面だけでなく、「VOHCマーク」がついているか確認してみてください。
これは米国獣医口腔衛生協議会(VOHC)が、科学的に歯垢・歯石を減らす効果があると認めた製品にのみ与えるマークです。
また、硬すぎるガムは歯が折れる原因になるため、指で押して曲がる程度の硬さを選ぶのがポイントです。
各ケア用品の「得意・不得意」を知ろう
各ケア用品はそれだけの使用では不十分なものの、歯磨きと組み合わせることによって大きな効果をもたらします。
ここでは歯ブラシ、歯磨きシート、歯磨きガムの3つの道具について、それぞれのメリット・デメリットを表にまとめました。
それぞれの特徴を知って、賢く使い分けましょう!
| ケア用品名 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 歯ブラシ | 最も効果的なケア用品。 3つの中で唯一、歯周ポケットに届く。 | 慣れるまでに時間がかかる。 |
| 歯磨きシート | 表面の汚れを拭き取る。 歯磨きの導入・慣らしに最適。 | 歯の隙間やポケットには届かない。 |
| 歯磨きガム | 噛むことで奥歯の汚れを落とす。 美味しくケアできる。 | 丸飲みや誤飲に注意。 |
今日から始める!「歯磨き慣らし」4ステップ

「もう成犬だしおうちで今更、嫌いな歯磨きをさせるなんて無理・・・」と諦める必要はありません。
大切なのは、「歯磨き=楽しい時間(ご褒美)」と飼い犬に覚えてもらうことです。
焦らず、以下のステップを数日〜数週間かけて進めてみてください。
口周りを触る
リラックスしている時に口まわりを優しく触り、できたらすぐに褒めておやつをあげます。
シートで優しくタッチ
ぬるま湯で湿らせたガーゼやシートを指に巻き、歯の表面を優しく撫でます。
歯ブラシを「当てる」
いきなりゴシゴシ磨いたりはしません。ペーストをつけたブラシを舐めさせ、歯にチョン、と当てるだけでご褒美をあげます。
奥歯の外側から短時間磨く
歯石がつきやすい「上の奥歯の外側」からスタート。
1本1秒程度で切り上げ、嫌がる前に終わらせるのがコツです。
まとめ

この記事では、意外と知らない「犬の歯磨きの適正頻度」について、医学的な理由から現実的なケアプラン、代替グッズの活用法まで解説しました。
理想は毎日ですが、犬の口内環境の特性上、まずは「3日に1回」の歯ブラシを目標にすれば、歯石化のリスクを大きく減らすことができます。
できない日はガムやシートに頼りつつ、週末やリラックスできる時間に、少しずつブラシに慣れていくことが大切です。
目の前にいる愛犬のお口のケアを日頃からできるのは、飼い主である私たちだけです。
日々のケアを通じて彼らの健康を守る、そんな飼い主でありたいですね。
この記事を通じて、無理のない範囲でのデンタルケアを始めていただければと思います。



