
筆者が引き取った時、すでに13歳だった愛犬は、顔周りを触られるのがとても苦手でした。
無理に触れることで、精神的な負担をかけたくなく、ほとんど歯磨きができずに最期を迎えてしまいました。
当時は歯磨きガムや噛むおもちゃを与えていたけれど、気付けば歯が欠けたり、抜けていることも。
あの子はずっと痛みや不快感を抱えていたのかもしれない、と今も時々思い出して、胸がきゅっとなります。
「もっとちゃんとケアしてあげればよかった。」
犬の歯磨きは「できたらいい」ではなく、「必要な」ケアです。
この記事では、歯磨きの必要性から始め方のコツ、嫌がる子への工夫、そしておすすめのケアアイテムまで、初心者の方にも分かりやすくお伝えしていきます。
今日から少しずつでも始めて、愛犬の「健康寿命」を一緒に伸ばしていきましょう。
この記事を書いた人
犬の歯磨き、なぜ必要?〜歯周病が招く怖いリスク〜[1][2]
「犬って野生時代は歯磨きなんかしてなかったし、別に大丈夫じゃない?」
と思う方もいるかもしれません。
でも今の犬たちは、野生とは違う生活を送っています。
やわらかいフードを食べ、外で骨をかじることも少なくなった現代では、歯垢がたまりやすく、実はとても歯周病になりやすいのです。
実際、3歳を過ぎた犬の8割以上が歯周病を抱えているというデータもあります[3]。
[1]日本補助犬科学研究「伴侶犬に対する予防歯科の有用性に関する研究」
[2]Society for the Protection of Animals「愛犬の健康寿命を延ばすための歯磨きの重要性」
[3]共立製薬株式会社「【犬編】第4回:歯みがき」
犬の歯磨きは必要?その理由がすぐ分かる!
歯垢・歯石が付きやすい
犬の口内はアルカリ性で、歯垢が歯石になるスピードがとても早いです(人間の約5倍!)。
歯周病が進行すると、歯ぐきの炎症や出血だけでなく、顎の骨が溶けたり、歯が抜けてしまったりします。
歯周病は全身の病気にも関係
細菌が血流にのって全身をめぐることで、心臓病や腎臓病、肝臓病などのリスクが高まることも。
自然に歯がきれいになることはほぼない
ドライフードややわらかいおやつ中心の現代犬は、かむことで歯が自然に磨かれることが少ないです。
犬は痛みを表に出さない生きもの
人間なら「歯が痛い」と言えますが、犬は不快感を上手に隠します。
「元気そうに見えるから大丈夫」と思っていたら、実は重度の歯周病だった…というケースも少なくありません。

歯磨きをしないとどうなる?(リスク一覧)
| 放置した場合のリスク | どんな症状が出る? | その先に起こること |
|---|---|---|
| 口臭 | 口が臭くなる | 体の不調や病気の初期サイン |
| 歯垢・歯石の蓄積 | 歯が黄ばむ、ザラザラする | 歯周病・歯のグラつき |
| 歯周病 | 歯ぐきが赤く腫れる、出血 | 歯が抜ける、化膿する |
| 全身疾患のリスク増加 | 発熱、元気がなくなることも | 心臓病・腎臓病など |
| 治療費が高額になる場合 | 動物病院での処置が必要になる | 麻酔下でのスケーリング等 |
「なんで磨いてあげなかったんだろう…」
そんな後悔をしないためにも、小さな変化を見逃さずに、できることから始めていきましょう。
嫌がる犬への歯磨きトレーニング&代替ケア
「うちの子は歯磨きが大嫌いで毎回大騒ぎ…」そんなお悩みを持つ飼い主さんも少なくありません。
でも、大丈夫。
ちょっとした工夫とステップを踏めば、歯磨きは「怖いこと」から「楽しい時間」へと変わっていきます。
優しく慣らす!犬の歯磨きトレーニング
| Step | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| Step1 | 口周りを触る練習 | いきなり口を開けようとせず、唇やほっぺを優しくなでるだけでもOK。 リラックスできるタイミングで行いましょう。 |
| Step2 | 指で歯にタッチ → ガーゼやシートで拭く | 指で軽く歯に触れる練習からスタート。 慣れたら、ガーゼやシートで前歯や犬歯をそっと拭いてみましょう。 |
| Step3 | 歯ブラシにステップアップ | 指サック型や小型ヘッドの犬用歯ブラシを使い、前歯から挑戦。 鉛筆を持つように軽く握り、ゴシゴシせず優しく。 |
| Step4 | 歯磨きジェルやペーストを使う | 犬が好きな味のペーストを使えば、ブラシをなめること自体が「楽しい体験」に。 磨きながら味わえるのが魅力です。 |
| Step5 | ごほうび&声かけで “良い記憶”として残るように | 少しでもできたら、たくさん褒めて、おやつやなでなでを。 「歯磨き=うれしい時間」になることが続けるコツです。 |
犬の歯磨きを無理せず続けるコツ
一気に全部の歯を磨かなくてOK!
今日は前歯、明日は奥歯…と分けて、少しずつがベスト。
時間は短く、集中できるうちに
犬の集中力は短め。
1回1~2分でも十分効果があります。
奥歯・裏側は慣れてから
最初は無理せず、見えるところからステップアップ。
どうしても難しい場合は?
「どうしても口を触らせてくれない…」
そんなときは、無理をせず歯磨きガムなどの“補助ケア”に頼っても大丈夫です。
歯石が目立つ、口臭が強いなどの症状がある場合は、動物病院でのスケーリング(歯石除去)も選択肢のひとつです。
うちの子に合うのはどれ?歯磨きグッズの選び方
「歯ブラシもシートもいろいろあるけど、どれを選べばいいの?」
そんなふうに迷う飼い主さんも多いはずです。
ここでは、犬の歯磨きに使える主なグッズとその特徴、選び方のコツやおすすめアイテムを、分かりやすくご紹介します。
主な歯磨きグッズの特徴
| グッズ | 特徴・おすすめポイント | 向いている犬 |
|---|---|---|
| 歯ブラシ | しっかり磨ける王道。 ヘッドが小さく柔らかい、犬用タイプを選んで | 歯磨きに慣れている犬 |
| 歯磨きシート | 指に巻いて使うタイプ。 細かい部分まで拭きやすい | 初心者・小型犬 |
| 歯磨きガーゼ | シートよりも丈夫で、使い方は同じ。 感触が好きな犬も多い | 歯ブラシが苦手な犬 |
| 歯磨きペースト | 犬専用を選べば飲み込んでも安心。 どのケアにも併用可能 | 全ての犬 (どのグッズにも併用可) |
| 歯磨きガム/おもちゃ | かむことで歯垢を落とす“お助けアイテム”。 補助ケアに最適 | 歯磨きが苦手な犬 |

「犬の歯磨きグッズ選び」のポイント
まずは「指で触る」感覚に慣れさせる。
はじめから歯ブラシに挑戦するよりも、シートやガーゼなど、やわらかくてシンプルなものから始めるのがおすすめです。
犬が口周りを触られることに慣れていけば、徐々にステップアップしやすくなります。
ペーストは必ず“犬専用”を使う。
人間用の歯磨き粉には、犬にとって有害な成分(キシリトールなど)が含まれていることがあります。
必ず、「犬専用」と明記されたものを選びましょう。
歯磨きガムやおもちゃは「補助的」に
「ガムをかんでるから大丈夫」と思いがちですが、ガムやおもちゃだけでは、歯のすき間や奥歯まではきれいにできません。
あくまで補助的に使い、基本は歯磨き+ペーストでケアしましょう。
ライオン「ペットキッス 歯みがきシート」
やわらかく、指にフィットしやすい。初心者にも使いやすいと人気。
ビルバック「C.E.T.歯みがきペースト」
犬専用ペーストの定番。チキン味やバニラミント味など、犬が好む味も◎
ドギーマン「ハミガキガム」など
手軽に使える補助ケアアイテム。かむことで歯垢を落とす設計。
グッズは、飼い主が続けやすく、犬が嫌がらないことが一番大切。
「うちの子が好きそう」「これなら続けられそう」そんな視点で、まずは1つ試してみましょう。
続けることが、何よりのケアになります。
歯磨きの頻度・始めるタイミングと年齢別ポイント
「毎日が理想って言うけど、実際どれくらい歯磨きすればいいの?」
「うちの子はもう成犬だけど、今からでも大丈夫?」
そんな疑問を持つ飼い主さんも多いはず。
ここでは、歯磨きの頻度や始めるタイミング、年齢ごとのポイントを分かりやすくまとめます。
歯磨きの理想的な頻度
| 頻度 | おすすめ度 | ポイント |
|---|---|---|
| 毎日 | ★★★★★ | 歯垢が歯石になる前に落とせるベストな習慣 |
| 2〜3日に1回 | ★★★★☆ | 忙しい時はこのペースでもOK。ただし補助ケアも |
| 週1回以下 | ★★☆☆☆ | 歯石化を防ぐには不十分。ガムやシートも併用を |
理想は毎日歯磨き!
歯垢は3〜5日で歯石に変わってしまうため、理想はやはり「毎日」のケア。
でも、毎日が難しい日もあるはず。
そんなときは、補助的なケアを組み合わせながら、できる範囲で続けていきましょう。
歯磨きを始めるベストなタイミング
子犬期(生後3カ月頃〜)
乳歯の頃から「口に触られることに慣れる」練習をしておくと、成犬になってもスムーズに歯磨きができるようになります。
成犬・シニア犬の場合
「もう遅いかな…?」と思わなくて大丈夫。
何歳からでもスタートできます。
最初は1本の歯を触るだけでもOK。
時間をかけて、やさしく慣らしていくことが大切です。

| 年齢 | 始め方のポイント | 詳細なアドバイス |
|---|---|---|
| 子犬 (生後3カ月〜) | まずは口や歯に触れる練習からスタート | ・頬や唇をめくる練習からスタート ・「触られたら褒められる」成功体験を積ませることで、将来の歯磨きがスムーズに ・運動したあとの眠そうなタイミングで数分だけ歯磨きを毎日続ける というサイクルも効果的 |
| 成犬 (7カ月〜6歳前後) | 急がず、短時間・ごほうびを使って慣らす | ・歯磨きの後に大好きなおやつをあげるなど、“楽しい経験”と結びつける ・口に触られるのが苦手な場合は、まずは顔周りをなでる練習からやり直してOK ・愛犬の様子をよく観察し、「今日はここまで」と見極めるのがコツ |
| シニア犬(7歳〜) | 歯や歯ぐきの状態を確認しながら、やさしく | ・磨くというより“やさしく拭く”ようなケアに切り替えるのも◎ ・時間よりも“ストレスなく触れ合うこと”を重視する ・口臭や出血など異変があれば、早めに歯科診療を検討してあげて |
毎日の歯磨きが理想ですが、完璧を目指すより、無理なく続けることがいちばん大事。
「始めたその日が、一番若い日」です。
子犬からでも、成犬からでも、今日から始めてみましょう。
よくある疑問Q&A まとめ
犬の歯磨きについては、「これって大丈夫?」「うちの子の場合はどうしたら…?」といった細かな疑問がつきもの。
ここでは、飼い主さんからよく寄せられる質問に分かりやすくお答えします。
歯磨きはどれくらいの時間やればいいの?
A. 1回1〜2分で十分です。
全部の歯を一度に磨けなくても、「今日は前歯、明日は奥歯」というふうに分けて続ければOK。
歯磨き後に水を飲ませてもいい?
A.基本的に問題ありません。
犬用の歯磨きペーストは飲み込んでも安心な成分で作られています。
歯が欠けていたり、出血したりしている場合は?
A.無理に歯磨きせず、すぐに動物病院で診てもらいましょう。
歯周病や口腔内のケガ・トラブルの可能性があります。
歯磨きがどうしてもできない日は?
A.歯磨きガム、デンタルおもちゃ、口腔ケアフードなどの補助ケアを活用。
ただし、それらはあくまで補助。
できる日は少しでもブラッシングする習慣を心がけましょう。
まとめ 歯磨きで愛犬の健康寿命を延ばそう
毎日の歯磨きは、愛犬の健康寿命を大きく左右する大切なケアのひとつです。
「今日は疲れたな…」と感じる日もあると思いますが、その小さな積み重ねが、愛犬の口臭や歯周病を防ぎ、将来の病気や治療費のリスクを減らしてくれます。
歯磨きは単なるケアではなく、「愛犬と触れ合う時間」でもあります。
無理せず、少しずつでも大丈夫!
愛犬との「オーラル・コミュニケーションタイム」を、ぜひ取り入れてみてください。
この記事の監修者

鮎川 多絵 (愛玩動物飼養管理士2級・ライター)
東京都出身。1986年10月生まれ。趣味は映画鑑賞・1人旅・散歩・動物スケッチ。
家族は保護犬1匹保護猫2匹(+空から見守る黒うさぎのピンキー)。
犬と私
子供の時からイヌ科動物が大好きでした。戸川幸夫氏の「牙王」で狼犬に憧れ、シートン動物記で「オオカミ王ロボ」に胸を打たれました。特に大きな犬のゆったりとした雄姿には目を奪われます。保護犬と保護猫の飼育経験から、動物関連の社会問題、災害時のペット同伴避難について意識を向けています。
この記事の監修者

吉田萌 (NPO法人ドッグトレーナー2級)
国際動物専門学校 しつけ・トレーニング学科卒。
噛み・吠え癖の酷い元保護犬のビーグルを里親に迎えた事をきっかけに『褒めてしつける』を念頭に活動。 自身の経験を活かし、しつけイベントにて飼い主に寄り添ったトレーニング方法を指導。 ナチュラルペットフード・栄養学の知識にも精通。保有資格はNPO法人ドッグトレーナー2級の他に、しつけアドバイザー2級、愛玩動物飼養管理士、ドッググルーマー2級など。
資格
NPO法人ドッグトレーナー2級、しつけアドバイザー2級、愛玩動物飼養管理士、ドッググルーマー2級







