
「うちの子、なかなかトイレを覚えない……」そんな悩みを持つ飼い主さんは少なくありません。
特に1歳を過ぎても粗相を繰り返すと、「今さら覚えられるのか?」と不安になるものです。
でも安心してください。まずは叱る前に、なぜトイレを失敗してしまうのか、その理由を知ることが解決への第一歩です。
今回は臨床心理士・公認心理師の吉田亜里咲さんに行動心理学の観点からもお話を聞いて見ました!
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犬がトイレを失敗する主な理由7選
マーキング
性成熟後の犬に多い行動で、特に未去勢・未避妊の犬に見られます。
においをつけて縄張りを主張する本能によるもので、しつけとは別のアプローチが必要です。
環境・教材が合っていない
トイレの位置が変わったり、シート・トイレ自体の材質や臭いが犬に合わなかったりすることも原因に。
新設時は以前のシートの匂いを移すなど徐々に慣らす工夫が有効です。
飼い主の反応による間違った学習
失敗した時に飼い主が反応することで「注目してもらえた」と間違って学習したり、逆に叱られることで「排泄=悪いこと」と学び、隠れて排泄したりするようになる場合があります[1]。
「促すタイミングを逃す」「褒めない」などの飼い主行動も失敗率を上げます。
[1]日本大学 小田史子 「オペラント条件づけによる子イヌのトイレトレーニング家庭における室内トイレトレーニングの介入事例」
トイレにネガティブな印象がついた
大きな音や嫌な出来事とトイレを関連づけてしまうと、避けるようになります。
環境や家族の変化
引っ越しや新しい家族の追加など、ストレスや混乱が原因になることも。
体の不調による失敗
膀胱炎や結石などの病気が原因で、頻尿・血尿・失禁などの症状が現れる場合があります。
急な粗相が続くときは、まず健康状態をチェックしましょう。
成長過程や身体機能による失敗
子犬の膀胱機能未成熟や、高齢犬の認知・身体機能低下も無視できません。
年齢に応じた対応が必要です。
犬のトイレトレーニング、成功率を上げる科学的アプローチ
犬は「排泄してすぐ褒められる」ことで学習します。
犬に「ここで排泄すればいいんだ!」と覚えてもらうには、行動直後に褒める(=強化)ことが重要です。
さらに、排泄しそうなタイミングでトイレに導いてあげる(=プロンプト)があると成功率が大きく上がります。

犬のトイレトレーニングは、「行動心理学」の基本原則に当てはまります。
「行動の直後に強化(=ごほうび)」を行うことで、望ましい行動の頻度が高まるという考え方です。
これは人間の学習行動ともよく似ています。
たとえば、褒められたことで「もっと頑張ろう」と思えたり、上手くできたことをすぐに認められると「これを続けていいんだ」と自信につながったりしますよね。一方で、失敗した時に怒られると、行動そのものをやめてしまったり、恐怖心で萎縮してしまうこともあったりするのは、子どもにも大人にも共通するところです。
つまり、いい結果が出れば続けられるし、そうじゃなければ続かない。
犬も「この場所で排泄すると褒められるんだ」と理解できれば、自発的な行動として定着していきます。逆に怒られたり、反応が曖昧だったりすると、「何が正しいか」がわからず迷ってしまうのです。

うーん、確かにダイエットや早起きも、成果が見えたり環境が整うと続けやすい!犬も同じなんですね。では、具体的なステップを確認していきましょう!
ステップ1 健康チェック
トイレの失敗が健康状態に起因している場合、学習理論に基づいてトレーニングしてもうまくいきません。
もしも頻尿・排尿痛・血尿などの症状が見られたら、まずは獣医師に相談を。
ステップ2 排泄タイミングの記録から始めよう
まずは、愛犬の排泄パターンを知ることが第一歩です。
- 食後/寝起き/遊びのあとなど、排泄が起きやすいタイミングを1週間ほど記録
- 排泄場所・時刻・成功/失敗もメモしておくと◎
このデータが、次のステップで「トイレに誘導するタイミング」のヒントになります。
ステップ3 トイレに導いて(=プロンプト)成功体験を増やす
次に、記録に基づいて犬が排泄しそうなタイミングでトイレに誘導する練習です。
自発的にできるようになるまで、“誘導する練習”を繰り返すことが重要。
- 記録のパターンを見て、排泄しそうな時間になったら、トイレへ連れていく
- 落ち着いた状態で数分様子を見る
- 成功したらすぐ褒める(次のステップへ)
プロンプトとは、「望ましい行動を引き出すためのきっかけとなる刺激や手助け」のことです。
人間の学習支援でも使われる手法で、「やるべき行動を忘れてしまう・気づかない」状況で、行動を引き出す補助として働きます。
【人間での例】
- 子どもに「宿題やった?」と声をかける → 行動を思い出すプロンプト
- 歯みがきカレンダーに「シール欄」がある → 自然と意識して磨くようになる
- エレベーターのボタンの上に「2階:受付」と表示がある → 迷わず2階を押す
プロンプトは「命令」や「叱責」ではなく、成功しやすい状況を作るやさしい誘導や目印のようなものです。
ステップ4 成功直後にごほうびを与える(=強化)
排泄がトイレでできたら、“3秒以内”に大げさなくらい褒めておやつをあげましょう。
このタイミングがズレると、犬には伝わりません。
- 特別感のあるおやつ(小さめのジャーキーなど)
- 声かけ+なでるなどのスキンシップも併用すると◎
強化子とは、「ある行動の直後に提示することで、その行動の出現頻度を高める働きを持つ刺激」のことです。
「行動後にごほうびを与えることで、その行動を増やすこと」を正の強化(Positive reinforcement)と言います。
【人間での例】
- ダイエット中に1kg減ったらお気に入りのカフェに行く → 継続のモチベ維持
- 子どもが宿題を終えたら「よくできたね!」と褒める → やる気がUP
- プレゼン後に上司に「いい説明だったよ」と言われる → 次回も頑張ろうと思う
特に行動直後(3秒以内が理想)に提示することで、「この行動をすると良いことがある」と結びつきやすくなります。

研究でも、「ごほうびの提示がある場合、排泄成功率が明らかに上がった」と報告されています[2]。
犬が注目を集めたい目的で失敗している場合、反応すると逆効果です。
また、飼い主が排泄を処理している動作が遊びのように映る場合もあるので、その場合には犬の見ていないときに排泄処理するようにしましょう!
自発的にトイレへ向かい、排泄できるようになったら、少しずつ報酬の頻度を下げます。
ここで注意すべきは、いきなりゼロにしないことです。
毎回 → 3回に1回 → たまに声かけだけ …のように段階的に行うのが良いでしょう。
行動学習理論を臨床心理士がさらに解説!
プロンプト × 強化子は学習の王道セット!
行動療法では、「プロンプトで導き」「成功したら強化子で褒める」この組み合わせによって、新しい行動(習慣)を確立させるのが基本戦略です。
🔹 プロンプト:「今が勉強する時間だよ」(タイマーや声かけ)
🔹 行動:子どもが机に向かう
🔹 強化子:「えらいね」「一緒に休憩しよう」と褒めたり寄り添ったり

これが行動療法でいう「学習の強化サイクル」です。
犬のトイレトレーニングも、これと同じ仕組みで成功率が上がります。
トイレトレーニング実験から見えた成功の条件(小田・河嶋, 2002)
日本大学の発表によると、トイレトレーニング成功には「ごほうび」+「タイミング誘導」の“両方”が効果的だと報告されています。
| 飼い主の行動 | 成果 |
|---|---|
| ごほうび+タイミング誘導 | トイレで排泄成功(維持も良好) |
| ごほうびのみ | 排尿は成功・排便は失敗 |
| どちらも実施せず | トイレ学習に至らず |
日本大学 小田史子・河嶋考 「家庭犬におけるトイレトレーニング」
まとめ:再トレーニングのコツ
犬のトイレトレーニングは、失敗の理由を理解し、再学習のプロセスを丁寧に踏むことで、何歳からでも改善できます。
飼い主さんの工夫と愛情が、再び成功体験へとつながるはずです。
- トイレ成功時は確実に褒める
- 排泄記録をつけて“予測”する
- 失敗は無反応・静かに片付け
- 飼い主が学習のサポート役になる
これらのポイントに留意して、愛犬との暮らしをより快適に、ストレスフリーにするために、ぜひ取り入れてみてください。
焦らず、根気よく、そして一緒に学んでいきましょう!
この記事の監修者

吉田萌 (NPO法人ドッグトレーナー2級)
国際動物専門学校 しつけ・トレーニング学科卒。
噛み・吠え癖の酷い元保護犬のビーグルを里親に迎えた事をきっかけに『褒めてしつける』を念頭に活動。 自身の経験を活かし、しつけイベントにて飼い主に寄り添ったトレーニング方法を指導。 ナチュラルペットフード・栄養学の知識にも精通。保有資格はNPO法人ドッグトレーナー2級の他に、しつけアドバイザー2級、愛玩動物飼養管理士、ドッググルーマー2級など。
資格
NPO法人ドッグトレーナー2級、しつけアドバイザー2級、愛玩動物飼養管理士、ドッググルーマー2級









