白くて耳だけ黒い小さな犬が、芝生の上で飛んでいる

ワンちゃんのチャームポイントといったら、やっぱりしっぽでしょ!

という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

その振り方も多種多様で、我々に何を伝えようとしているのか探ろうと、動きをつい目で追ってしまうという方も多いでしょう。

では、そんな犬にどうしてしっぽが生えているのか考えたことはありますか?

あんなにたくさん観察してきたけど、しっぽが犬にとってどんな役割を持っているのかと聞かれると、思わず答えに困ってしまう、そんな方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、大型犬がもつしっぽの形犬のしっぽの役割に関するあれこれそもそもしっぽはどうやって生まれたのか飼い犬のしっぽについて確認すべきポイントなど、犬のしっぽについて幅広く解説していきます!

ぜひ最後までご覧ください!

この記事を書いた人

しっぽはどうやってできたのか?

雪の中6頭の犬が犬ぞりを引いている

我々哺乳類だけでなく、鳥類、爬虫類、両生類などの生物は、その祖先をたどると肉鰭類(にくきるい)という魚類に行きつきます[1]

肉鰭類の生物が持っていた、水中で推進力を得る役割を持つ尾ひれが、陸に進出するなかで変化したのがしっぽだといわれています。

そのため、しっぽは爬虫類や両生類などにも見られる構造であり、特に哺乳類に属する生物のほとんどはしっぽを持っています

しっぽを持たない哺乳類には人やゴリラ・チンパンジーといった一部の類人猿、コアラなどが挙げられますが、哺乳類全体で見ると、これは非常に珍しいケースなのです[2]

ワン!ポイント 人間にもしっぽは生える?

皆さんもご存じの通り、人間にはしっぽは生えません。

約2500万年前、サルと分岐して類人猿が出現した頃から生えなくなったといわれていますが、その理由はまだわかっていません[3]

さらに、生まれる前の人間にはしっぽが生えるものの、なぜかその後短期間で縮むということも判明しているほか、おしりの先にしっぽのようなものが生える先天異常も確認されています[4]

人間としっぽの関係性には、まだまだ未解明の領域が広がっているようです。

[1]新潟大学理学部 動物進化発生学研究室「脊椎動物の系統関係について

[2]Nature Japan「進化学:ヒトと類人猿の進化における尾の喪失

[3]東京薬科大学 名誉教授コラム「ヒトはどのように尻尾を失った?

[4]ザッツ京大「コアラのおしりが人類誕生の謎を解くカギに!? 文理両面から迫る独自の「しっぽ学」とは

しっぽの形にも種類がある

それでは、犬のしっぽはどのようになっているのでしょうか?

犬のしっぽは、形によって数多くの種類に分類されています

今回はその中でも、大型犬のもつしっぽについて4つ紹介していきます!

オッター・テイル

芝生の上で黒い犬がこちらを見ている

オッター(Otter)とはカワウソのことで、カワウソのしっぽと形が似ていることからこのような名前がつきました。

全体的に平べったく、太い根元から先に行くにつれて細くなっていきます

代表的な犬種としてはラブラドール・レトリーバーがいます。

彼らの祖先たちは泳ぐ機会が多く、水中で舵取りの役割を果たせるようにこのような形になったという説もあります。

カワウソのしっぽ。オッター・テイルとよく似ていることがわかります。

▲こちらがカワウソのしっぽ。オッター・テイルとよく似ていることがわかります。

プルーム・テイル

黒い首輪をしたベージュの可愛い犬がアスファルトの上で立っている

羽状の飾り毛(プルーム)が垂れ下がっているしっぽをプルーム・テイルといいます。

ゴールデン・レトリーバーイングリッシュ・セターなどがプルーム・テイルの犬種です。

しっぽが旗のようにも見えることから、フラッグ・テイルとも呼ばれています。

垂れ尾

白とグレーのシベリアンハスキーが外でたたずんでいる

自然な状態で下に垂れ下がっているしっぽを垂れ尾と呼び、ブラッシュ・テイルやセイバー・テイルとも呼ばれています。

大型犬ではシベリアン・ハスキーセントバーナードジャーマンシェパードが垂れ尾です。

アラスカン・マラミュートとよく似ているシベリアン・ハスキーですが、自然な状態のしっぽが垂れ下がっているのがシベリアン・ハスキー、軽く巻かれているのがアラスカン・マラミュート、と見分けることができますよ。

リング・テイル

茶色くて毛が豊かな犬が土ぼこりを立てて走っている

根元から高く上がって丸くカーブし、さらにしっぽの先でわっかができているしっぽは、リング・テイルと呼ばれています。

アフガン・ハウンドがリング・テイルの代表的な犬種。

スリムで気品を感じさせるスタイルを持つアフガン・ハウンドに小さく生えていると、なんだか一層かわいらしいですね。

しっぽの役割についてのあれこれ

緑の中で尻尾を立ててうつぶせになっている犬

さて、ここからは犬におけるしっぽの役割について解説していきます。

犬はどんなことに自分のしっぽを使っているのでしょうか?

(もちろん、紹介する以外の用途でもしっぽが使われることがありますよ!)

コミュニケーション手段としてのしっぽ

シュナウザーが二匹、芝生の上で吠え合っている

しっぽはコミュニケーションに使われる、けど・・・

多くの飼い主さんのご想像の通り、犬はしっぽを使って感情を伝えたり、コミュニケーションを取ったりしています

しかしながら、しっぽの動きとそれが表す感情の関連性についての研究は、意外と進んでいないというのが現状です。

その理由としては、実験に参加する犬の犬種や性格は様々であるため、同じ感情であっても犬によって尻尾の振り方が異なることが多いということが挙げられます[5]

また、犬は複数のしぐさで自分の感情を表すため、特定の行動を取り上げて、そこから何を感じていると断定することができないのです。

人間に例えるなら感情が顔に出やすい人・出にくい人がいたり、同じ感情を持っていてもそれを表現する方法が違う・複数あるようなもの。

ひとりひとりに向き合い癖をみつけることで、その人が何を考えているか察せられるようになる、ということも多いと思います。

同じように犬の感情を見分けるためには、目の前のワンちゃんをよく観察することが重要でしょう。

うちの子だけの感情表現に気づけるのは、誰よりも一緒にいる飼い主のあなただからこそできることなのです

[5]筑波大学 大内 優梨、田中 文英「周辺環境情報を用いてイヌの尾の動きから感情を分類するシステムの提案

しっぽが表す感情について、わかっていること

じゃあ、しっぽが何を表しているか何もわからないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、しっぽの動きと感情との関連性を研究した論文もいくつか存在します。

ここでは、どのような動きが大まかにどのような感情と結びついているかについてを表で紹介します。

しっぽの動き感情
しっぽを高く立ち上げている積極性や興奮、自信の表れ
しっぽを硬直させている脅威、不安の表れ
しっぽを低く振る、足の間に挟む
(姿を小さく見せようとしている)
恐怖の表れ
しっぽをゆるく、左右に振っている友好性の表れ

Marcello Siniscalchi et al.「Communication in Dogsより著者作成

また、犬側から見てしっぽを右側に振っているときはリラックスしている・喜んでいることを表し、反対に左側に振っているときはストレスを感じているなど、緊張状態にあることを表しているという研究結果があります[6]

つい犬がしっぽを振っていると喜んでいると思いがちですが、必ずしもそうとは限らないようです。

ワン!ポイント しっぽが短い犬のコミュニケーション

しっぽを使ったコミュニケーションを行う犬ですが、それではしっぽがない・短い犬はどのようにコミュニケーションを行っているのでしょうか。

確かに彼らは、長いしっぽを持つ犬より表現の幅が狭まってしまうようですが、そうした犬も顔の表情や、首からしっぽまで続くかたい毛を使うなどして感情を表せるとされています。

[6]Marcello Siniscalchi et al.「Seeing Left- or Right-Asymmetric Tail Wagging Produces Different Emotional Responses in Dogs

「体のバランスを取る」は間違い?

緑の芝生の上を黒い犬fが疾走している

しっぽを持つ生き物たちの多くが、運動時のバランスを取るためにそのしっぽを使っているといわれています[7]

同じく犬も走ったり、ジャンプをする際などにしっぽが使われるとされていました。

ところが、マンチェスター大学のトム・ロッティエ氏ら2022年に発表した内容によると、犬がジャンプすることに、しっぽはほとんど寄与しないことが分かりました[8]

つまり、犬はジャンプや旋回、歩行などの行動をとる際、バランスを取ることに対してしっぽを全く使っていないという可能性が浮上したのです。

プレプリント内の研究ではボーダーコリーのジャンプをもとに、モーショントラッキングを用いて運動モデルを作成しました。

モデルをもとに腕やしっぽなどの関節がどれだけ運動に影響を与えたか測定すると、それぞれの関節はジャンプの際に発生する角度にほとんど影響を与えていなかったのです。

また、研究ではイヌ科の体格としっぽの大きさの関連性についても分析されました。

するとイヌ科の動物の場合、ほかの哺乳類と比べて体重の増加に対してしっぽの長さがそこまで大きくならないこと、また体長に対するしっぽの長さの割合は、体長が伸びるにつれてどんどん短くなることが分かりました。

そのため、ほかの哺乳類のようにバランスを取るためにしっぽを使っているという従来の仮説に疑問を投げかける結果となったのです。

プレプリントでは、犬はしっぽをコミュニケーション、あるいはハエなどの動物を追い払うために利用しているのではないか、と予想しています。

[7]CERT 東京薬科大学 研究ポータル「ヒトはどのように尻尾を失った?

[8]Tom Rottier et al.「Tail wags the dog is unsupported by biomechanical Modeling of Canidae Tails Use during Terrestrial Motion

しっぽがもつ、そのほかの役割

それでは、犬のしっぽはコミュニケーションの他にどのような用途で用いられるのでしょうか?

例えば、寒いときに体温を維持する役割を持っています。

気温の低い日に、体を丸めている犬の姿を見たことはあるでしょうか?

これは体を密着させるだけでなく、鼻をしっぽの下にしまい込むことによって冷たい空気を吸わないようにしているのです。

また、相手を信頼できないときにしっぽで生殖器部分を覆う、という反応を示す犬もいます[9]

犬には他の犬の情報を肛門近くにある臭腺から嗅ぎとるという習性があるため、しっぽは自分の情報を遮断するための蓋としてはたらくことがあるのです。

このように、犬のしっぽは生活における様々な役割を担っています。

普段その役割についてあまり深く考えないという方も、ぜひこれを機に犬のしっぽを観察してみてください。

[9]ナショナル ジオグラフィック「イヌはしっぽで何を語る?

うちの子の健康のために!しっぽについてのチェックポイント

白と黒の服を着た女性と一緒にグレーのソファーに座る薄茶色のトイプードル

コミュニケーション機能をはじめさまざまな役割を持つ犬のしっぽですが、飼い主さんたちにとっては飼い犬の健康状態をはかるバロメーターの一つでもあるのではないでしょうか。

実際に、何らかの原因によって体調が悪い場合、しっぽの様子や動きにも変化が見られることがあります。

例えばしっぽが腫れていて、歩き方のおかしいときはしっぽを骨折している可能性があります。

また、元気がなく、ずっとしっぽを下げたままにしているときは、肛門周辺に何かトラブルを抱えているのかもしれません。

馬尾症候群という、腰からしっぽのあたりにある神経が圧迫されることで起こる病気によってしっぽが上がらない可能性も考えられます。

「自分のしっぽを追う」というかわいいしぐさも、あまりに長い間続くようであれば常同障害の兆しがあるかもしれません。

これは人間の強迫性障害と似たものであり、ストレスや欲求不満を解消するための行為がエスカレートした状態だとされています。

完治は難しい症状ですが、その存在に飼い主さんが気づくことができれば、発生する頻度を減らすことができる病気です。

紹介したケガや病気のどれも、普段からしっぽを観察していることで発見できる可能性があります。

「普段からよく観察しているつもりだったけど、しっぽについてはあんまり気にしてなかった・・・」

という飼い主さんがいらっしゃいましたら、ぜひワンちゃんの健康をチェックするポイントの一つに入れてみてください!

まとめ

土の中から見えてる茶色と白のしっぽ

犬のしっぽについて、その形状や役割などを分かっていただけたでしょうか。

哺乳類は、そのほとんどがしっぽを持っています

それは犬も同じですが、彼らはそれぞれの犬種によって多種多様なしっぽを持っており、犬種ごとの特徴の一つです。

また、犬のしっぽには様々な役割があります。動かし方によって感情を表現したり、体温を維持したり体の一部を隠したりするのがその例です。

一方で、しっぽの動き方と感情とのつながりはまだ分からないことも多いので、犬を飼っている環境においては目の前の犬のしぐさをしっかりと観察することが、感情を見定めるポイントになることを覚えておきましょう。

なおほかの動物と同じように、犬も運動時にしっぽを利用していると考えられていましたが、最近の研究によるとしっぽはバランスを取ることにあまり影響しない可能性があることも判明しています。

犬はさまざまな目的のために自分のしっぽを使い、飼い主さんも犬のしっぽを観察することで、健康についてたくさんのことが分かります。しっぽの様子がいつもと違うときは体調に不具合がないか、普段より注意深く見守ってあげてくださいね。

この記事で、犬のしっぽについてより興味を持っていただけたら幸いです。

 この記事の監修者

鮎川 多絵 (愛玩動物飼養管理士2級・ライター)

東京都出身。1986年10月生まれ。趣味は映画鑑賞・1人旅・散歩・動物スケッチ。
家族は保護犬1匹保護猫2匹(+空から見守る黒うさぎのピンキー)。

犬と私
子供の時からイヌ科動物が大好きでした。戸川幸夫氏の「牙王」で狼犬に憧れ、シートン動物記で「オオカミ王ロボ」に胸を打たれました。特に大きな犬のゆったりとした雄姿には目を奪われます。保護犬と保護猫の飼育経験から、動物関連の社会問題、災害時のペット同伴避難について意識を向けています。

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資格
愛玩動物飼養管理士2級 防災コーディネーター 学芸員 登録日本語教員

この記事を書いた人

笹島 智之

神奈川生まれ、いろんな国育ち。大学ではメディアについて勉強し、現在はそれを活かせるような仕事をしている。趣味は読書、飲酒、音楽を聴くこと、そして知らない道を歩くこと。
実家でトイプードルを飼っている。毛色はアプリコット。ソファで横になっていると、脚にできた隙間にすっぽり収まるように寝にくるのがかわいい。

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