
朝目覚めると、フローリングの上に白い泡の塊――
愛犬が夜中に何かを吐いていたことに気付いて、思わず不安になった経験はありませんか?
犬が吐く行為は、時に体の異常を知らせる大切なサインです。
一方で、犬は人間よりもはるかに“吐きやすい動物”でもあるため、すべての嘔吐が深刻な病気の前触れというわけではありません。
そこで今回は、犬の嘔吐に隠された意味や原因、病院へ行くべきかどうかの見極め方、さらには嘔吐物の色によって考えられる症状や対処法について、分かりやすく解説します。
この記事を書いた人
実は犬は「よく吐く動物」

犬が吐く――それだけで、すぐに深刻な病気を疑ってしまうかもしれませんが、実はそうとも限りません。
というのも、犬はもともと「吐くことに慣れた動物」だからです[1]。
人間は二足歩行で、食べ物は重力に従って胃の下の方へと落ちていきます。
そのため、一度飲み込んだものを吐くには、重力に逆らって口まで戻す必要があり、かなりの負担がかかります。
一方、犬は四足歩行。消化器官が地面と平行になっているため、重力に逆らわずにスムーズに吐くことができます。
つまり、構造的に「吐きやすい体」をしているのです。
さらに、犬には野生時代の本能も残っています。
体に合わないものや異物を食べた際には、自発的に吐いて体外に出そうとする防御反応が働きます。
この本能が、現代の家庭犬にも引き継がれているのです。
とはいえ、「犬は吐いて当たり前」と油断してはいけません。
吐くたびに胃酸が逆流し、喉や食道を傷つけることもありますし、何度も繰り返せば体力も奪われてしまいます。
だからこそ、飼い主にとって大切なのは、犬の吐き方について正しく知ること。
「なぜ吐くのか?」「どういった種類があるのか?」原因とタイプをしっかり理解したうえで、適切な対応と予防策を学んでいきましょう。
[1]日本大学農獣医学部 「日獣会誌 (1961)」
「これは要注意!」な危険な嘔吐とは?

犬の「吐く」には「嘔吐」と「吐出」の2種類があります。
「嘔吐」は、胃の中のものを口から出してしまうことを指し、「吐出」は食べたものが胃に入る前に食道から逆流して口から出してしまうこと。
いわゆる吐き戻しのことを指します。
まずは、比較的よくある嘔吐・吐出のパターンをご紹介します。
これらは、基本的に命に関わるような重篤な症状ではなく、ちょっとした工夫で改善するケースが多いです。
吐いた後も体調や食欲に異常が見られない場合
吐いたあとも元気にごはんを食べたり、おもちゃで遊んだりする場合、急を要する病気の可能性は低いと考えられます。
中には、吐いたフードをそのまま食べ直す犬もいますが、これもそれほど珍しい行動ではありません。
ただし、何度も吐き続けるようなら、やはり注意が必要です。
吐いた後に体調や食欲に少しでも異常がみられる場合はすぐに病院に行きましょう。
白い泡や黄色い液体を吐く(空腹性の嘔吐)
犬が吐く白い泡は胃液、黄色い液体は胆汁であることが多く、いずれも空腹が長く続いたことによる胃酸過多が原因と考えられます。
どうしても時間が空きがちな、夕飯~朝食の間に見られることが多く、「朝ごはんの前によく吐く」という子に多い傾向です。
この場合は、間食を与えて空腹でいる時間を短くしてあげることで改善されることもあります。
それでも続く場合は、消化器に問題がある可能性があるため、獣医師に相談しましょう。
勢いよく飲み食いして吐く
早食いや早飲みによってうまく消化できず、すぐに吐いてしまうケースです。
もともと犬には勢いよく食事をする性質があり、その勢いによって、急激に胃が大きくなり、吐いてしまうことがあります。
急を要する症状ではありませんが、胃や喉、食道に負担をかけてしまうため早めに対処しましょう。
このようなときは、早食い防止用の食器や、知育トイを使ってフードを少しずつ食べさせると効果的です。
また、手から一粒ずつ与えるのも有効な方法です。
草を食べて吐く
散歩中に草を食べて吐くことも良くあります。
なぜ草を食べようとするのかは不明ですが、「草の味や触感が好き」、「栄養素を草から補給しようとしている」、「草を食べることで食道や胃を刺激し、異物を吐き出そうとしている」などの理由が考えられています。
草を食べることは、基本的には健康に害はありませんが、除草剤などの薬剤が付着している場合や
「アロエ」、「チューリップ」、「ユリ」など、犬が食べると中毒を起こしてしまう植物もあるので、誤ってそれらの草を口にしないためにも、散歩中に草むらに近づいた際は注意しましょう。
「これは要注意!」な危険な嘔吐とは?

以下のような嘔吐は、早急に動物病院に相談したほうが良いケースです。
見逃すと命に関わることもあります。
血が混じる嘔吐
一度の嘔吐で出血が見られた場合、すぐに獣医師の診察を受けましょう。
粘膜が傷ついた程度であれば軽傷で済みますが、胃潰瘍、消化器系の腫瘍、胃がんなど深刻な疾患の可能性も否定できません。
嘔吐の頻度、吐いたものの色や匂い、食欲の有無など、詳細な情報を記録しておくと診察時に役立ちます。
食べたものがいつまでも胃に残っている
本来、食べたものは数時間〜半日ほどで胃から腸へと移動します。
朝に食べたフードが夕方になってそのままの形で吐き出された場合、消化器官の運動機能に何らかの障害があるかもしれません。
胃捻転や腸閉塞といった、迅速な処置が必要な病気が隠れている可能性もあるため、早めの動物病院で診察を。
繰り返し吐き続ける
食べてもすぐ吐いてしまう、吐き気だけで何も食べられない、明らかに元気がない──これらの症状が揃っている場合は、脱水や低血糖のリスクも高まります。
特に子犬やシニア犬の場合、体力が急速に奪われるため、半日も様子を見る余裕はありません。すぐに病院へ連れていきましょう。
吐こうとしているのに吐けない
明らかに吐こうとする素振りを見せているのに吐けていないときは、胃拡張や胃捻転を起こしている可能性があります。
大量に食事をした直後に散歩や運動を行うと発症することがあり、処置が遅れると血行障害が起こり命に関わる恐れがあります。
吐いたものの匂いが強い
内臓系の病気やウイルスによる腸炎などが疑われます。
また、糞食を行っている場合も匂いが強くなるので要チェック。
糞食は急を要する事ではありませんが衛生的にあまりよくないので、早い段階で辞めさせるようにしましょう。
異物を吐き出した
異物を吐き出した際は、それがまだ体内に残っている可能性もあるため、早急な検査が必要です。
異物の種類によっては腸閉塞を引き起こしてしまう可能性もあるので、必ず動物病院で診てもらいましょう。
吐いた「色」でわかる、体のSOSサイン
犬が吐いた物の色や状態には、体内の異常や病気のヒントが隠れています。
嘔吐物を処理する前に、以下のチェックポイントを参考に「色・形・内容物」を確認しましょう(可能であれば写真を撮っておくと、診察時に役立ちます)。
吐いたものの色・状態別チェック表
色・状態 | 考えられる原因 | 対処の目安 |
---|---|---|
白い泡 | 空腹時に胃酸や唾液が混ざって出たもの。軽い胃炎も | 元気なら様子見。頻繁に繰り返すなら要受診 |
黄色い液体 | 胆汁。空腹や消化不良、胃腸のトラブル | 毎日続く/食後も吐くなら消化器系の病気を疑う |
緑色の液体 | 胆汁または草・異物などの誤飲、中毒の可能性も | 異物誤食の疑いあり。念のため受診を |
茶色・泥状 | 血液が胃酸で変色したもの(胃潰瘍など) | すぐに受診。重大な内臓疾患の可能性あり |
赤い(鮮血) | 食道・胃・口腔内からの出血 | 緊急性が高い。すぐに病院へ |
黒っぽい/タール状 | 体内にとどまった出血。腸・胃からの深刻な出血 | 早急な受診が必要 |
未消化のフード | 早食い、食後の運動、胃の運動障害など | 早食い対策を。頻繁に吐くなら要検査 |
異物(ひも、ビニールなど) | 誤飲による嘔吐 | 異物が残っている場合は緊急手術もあり得る |
吐いたとき、飼い主がやるべきこと
- 何をどれくらい吐いたか?(色・形・量)
- 吐いたのは何回目か?(1回だけか、繰り返しているか)
- 吐いた時間帯と前後の行動(食後?起きた直後?)
- 吐いたあとの様子(元気・食欲・下痢の有無)
- 異物誤飲が疑われる(ひも、布、玩具など)
- 嘔吐が止まらない(間隔が短く、連続して吐く)
- 血が混じっている、または黒い/茶色い
- 食べたものや薬の中毒が疑われる(チョコレート、玉ねぎなど)
嘔吐を繰り返す原因は? よくある疾患例
以下のような病気の初期症状として、「嘔吐」が見られることがあります。
疾患名 | 特徴的な症状 |
---|---|
胃腸炎(急性・慢性) | 嘔吐、下痢、食欲不振、腹部不快感 |
パルボウイルス感染症 | 子犬に多い。激しい嘔吐・血便・発熱。致死率高 |
異物誤飲・腸閉塞 | 嘔吐、食欲不振、排便なし、腹痛(うずくまる) |
腎不全・肝障害 | 慢性嘔吐、口臭、体重減少、元気消失 |
膵炎 | 食後に吐く、腹痛、食欲低下、高脂血症の犬に多い |
子宮蓄膿症(メス) | 嘔吐の他に発熱・膿状のおりもの・元気低下 |
嘔吐だけでは病気を特定できないため、必要に応じて血液検査、レントゲン、超音波検査などを行い、正確な診断が必要です。
まとめ:犬の嘔吐、見逃してはいけない「体からの声」
犬は話すことができません。
だからこそ、“いつもと違う吐き方”や“変わった様子”に気づいてあげることが、飼い主にとって何より大切です。
- 何色のものを吐いた?
- 異物は混ざっていなかったか?
- 食前か食後か?
- 1日何回吐いた?
- 元気・食欲・排便は?
これらを記録しておくと、動物病院での診断がスムーズになります。
大切な家族である愛犬の健康を守るために、日頃から「観察する目」を養っておきましょう。
この記事の監修者

吉田萌 (NPO法人ドッグトレーナー2級)
国際動物専門学校 しつけ・トレーニング学科卒。
噛み・吠え癖の酷い元保護犬のビーグルを里親に迎えた事をきっかけに『褒めてしつける』を念頭に活動。 自身の経験を活かし、しつけイベントにて飼い主に寄り添ったトレーニング方法を指導。 ナチュラルペットフード・栄養学の知識にも精通。保有資格はNPO法人ドッグトレーナー2級の他に、しつけアドバイザー2級、愛玩動物飼養管理士、ドッググルーマー2級など。
資格
NPO法人ドッグトレーナー2級、しつけアドバイザー2級、愛玩動物飼養管理士、ドッググルーマー2級