
飼い主の手をぺろぺろ、自分の手をぺろぺろ。
ついでに家族の顔までぺろぺろ。
「うちの子は、よく舐めるな。無理に舐めるのを止める必要はないかな。家族以外も舐めてしまうと困るな。」
と思ったことはありませんか?
“舐める”という行動の裏には、心理的なサインや健康状態のヒントが隠されていることがあります。
この記事では、犬が手を舐める理由について詳しく解説し、時には辞めさせる方法や必要に応じた対処法をお伝えします。
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犬が手を舐めるのはなぜ?
犬が自分の手を舐める行動はもともとの本能ですが、その背景にはさまざまな理由が存在します。
主な理由を本能的な行動、愛情や信頼の表現、そしてストレスといった心理的要因から、解説します。
本能的な行動(親子・社会性・安心行動など)
犬が舐める行動は、生まれつき備わった本能の一部です。
例えば、野生犬と自閉症の傾向がある犬を比較した研究では、母犬による子犬への舐め行動や授乳といった母性行動が、自閉症犬では減少してしまったことが明らかになっています[1]。
また、野犬やオオカミでは、子犬が母犬の口元を舐めて食べ物をねだる行動がみられ、親愛や服従の気持ちを表現することがあるとも言われています。
これらの行動は、家庭犬にも引き継がれており、飼い主の手を舐めることで「信頼している」「仲良くしたい」というメッセージを伝えていると考えられています。
[1]Lyu W et al.「Oxytocin improves maternal licking behavior deficits in autism-associated Shank3 mutant dogs」(translational psychiatry 2025)
飼い主への愛情表現・絆の証
犬が手を舐める主な理由のひとつは、愛情表現です。
犬と飼い主の接触行動を調査した研究では、約85%の犬が飼い主の手を舐め、さらには、約半数は、飼い主の顔を舐めることが報告されています[2]。
これは犬が、人間の手を舐める行動が、一般的な接触行動であることを示しています。
犬同士も親愛の情を示すために舐め合うことがあります。
これは母性行動からくるもので、犬も人間同様に、オキシトシン(いわゆる「幸福ホルモン」)の分泌があることが研究からわかっています[3]。
このオキシトシンと呼ばれるホルモンは、犬の母性行動やストレス軽減に重要な役割を果たしていることもわかっています。
例えば、前述の自閉症傾向を示す犬に対する研究では、オキシトシンの分泌が低下していることが明らかになっており、オキシトシンを投与することで母犬の子犬への舐め行動や養育行動が増加したことが報告されています。
犬が手や顔を舐める行動は、親愛の情や信頼、甘え、要求、服従など、さまざまな気持ちを伝える方法と考えられており、飼い主とよく一緒に過ごしている犬ほど、信頼や絆の証として、手を舐める行動が増加するでしょう。
時には、飼い主の手の匂いや味が気になって舐めることもあり、これは犬が環境を探る本能的な習性によるものと考えられています。
[2]Philip et al.「Dogs and Their Owners Have Frequent and Intensive Contact」(Int J Environ Res Public Health 2020)
[3]Lyu W et al.「Oxytocin improves maternal licking behavior deficits in autism-associated Shank3 mutant dogs」(translational psychiatry 2025)
ストレスや退屈からくるクセの可能性
犬が手を舐める行動は、ストレスや不安、孤独感など心理的な要因からくる場合もあります。オキシトシンは、ストレスが増加すると、幸福ホルモンとして、ストレスを和らげるために増加することもわかっています。
そのため、母性行動だけでなく、ストレス時にも、同様に手を舐める行動がおこる可能性があるのです。
面白い研究では、人が怒っている様子を見ると、犬は人の手を舐めることもわかっています[4]。
これは音声だけの場合では頻度が低く、視覚やほかの感覚から、自分を落ち着かせるために起こる行動だと考えられています。
[4]Natalia Albuquerque et al.「Mouth-licking by dogs as a response to emotional stimuli」(Behavioural Processes 2017)
犬が家族(人)の手を舐めるのはなぜ?
犬が家族の手やその他の部位を舐める理由について、さらに具体例をあげて解説します。
匂いや味が気になる(汗・食べ物の残り香など)
犬は嗅覚や味覚が非常に優れており、飼い主の手に残る汗や皮脂、食べ物の匂い、香水やハンドクリームの香りなどに強く興味を持ちます。
そのため、手に残った匂いや味を確認するために舐めることがあります。
特にご飯の時間が近いた時や食事の準備するとき、または食べ物の残り香が手についている場合は、犬が「いい匂いがするぞ!」と感じて舐めることがよくあります。
飼い主をなだめたい・安心したい心理
犬は不安やストレスを感じたとき、飼い主の手を舐めることで、自分自身を落ち着かせ、安心感を得ようとします。
環境の変化や運動不足、飼い主とのコミュニケーション不足などが原因でストレスを感じると、犬は自分の手や飼い主の手を繰り返し舐めて気持ちを落ち着かせようとします。
また、暇つぶしや癖として無意識に舐めているケースもあり、特に何もすることがないことに対してストレスを抱えている可能性があります。
また、飼い主が緊張しているときや叱られたときなど、相手をなだめたい、敵意がないことを伝えたいという心理も働きます。
これは自己安定化や信頼関係の確認としての行動です。
甘えや服従のサイン
飼い主に対する甘え「もっとかまってほしい」「遊んでほしい」と、飼い主の注意を引きたいときにも犬が手を舐める行動が強まることがあります。
つい、私たちも、犬の甘えん坊な姿に「あなたが大好き」「信頼しているよ」と言ってくれているような気がします。
その際は、忙しいからとはぐらかさず、撫でであげたり、ブラッシングなどをしてあげたり、愛情表現をしてあげましょう。

手を舐める行動は放置していい?注意点を解説。
犬が手を舐める理由が、愛情表現の証や、不安、甘えなどストレスからくることはわかりましたか?
犬が自分の手を一生懸命舐めていると、こちらも少し不安になりますよね。
手を舐める行動について、以下、3つの注意点を解説します。
体の不調やかゆみ(皮膚炎・関節炎など)
犬が自分の手や足をしきりに舐める場合、皮膚炎やアレルギー、関節炎、ケガ、虫刺されなど、体の不調やかゆみが原因となっていることがあります。
特に「肢端舐性皮膚炎(したんしせいひふえん)」は、犬が足先を過度に舐め続けることで皮膚が赤くなったり、脱毛や潰瘍ができる疾患です[5]。
他にも、感染症や寄生虫なども原因となるため、舐めている部位に赤みや腫れ、傷などが見られる場合は早めに動物病院を受診しましょう。
[5]けいこくの森動物病院「犬猫の肢端舐性皮膚炎(舐性肉芽腫)について」
精神的ストレス・不安の現れ
ストレスや不安、退屈などの心理的な要因でも、犬は自分の手を舐めることがあります。
環境の変化、運動不足、寂しさなどがストレスとなり、自己安定化のために舐める行動が見られます。
ストレスによる過度な舐め行動は、時に自傷行為に発展し、皮膚炎や脱毛を引き起こすこともあるため、ストレスの原因を取り除くことが大切です。
過度なグルーミング(常同行動)への注意
本来、犬が自分の手を舐めるのはグルーミング(お手入れ)やリラックスの表れとして正常な行動ですが、これが過度になると「常同行動」と呼ばれる問題行動に発展することがあります。
常に同じ場所を舐め続けることで皮膚が傷つき、舐性皮膚炎や二次感染を起こすリスクが高まります。
グルーミングが習慣化し、辞められなくなっている場合は、早めに専門家に相談することが重要です。
対処法:手を舐めるのを辞めてもらうには
注意点に当てはまる炎症が見られる場合や、過剰に手を舐める行動が気になり「頻度を減らすには?」と思う飼い主のために、対処法について、順番にポイントを記載します。

まずは原因を見極める(観察ポイント)
舐める行動がいつ、どんな状況で起きているかを観察します。
毎日同じ時間に舐めていないか、散歩や留守番の後など特定のシチュエーションがないかチェックします。
また、足先や皮膚に赤み、腫れ、傷、脱毛など異常がないかも確認しましょう。
行動の前後や、飼い主とのコミュニケーションの内容も観察し、ストレスや退屈が原因でないかも見極める必要があります。
ストレスや運動不足の場合。解消する工夫
手を舐める行動がやや多い場合、まずは、散歩や遊びの時間を増やし、十分な運動と刺激を与えることを考えましょう。
散歩の時間を増加させることで、帰宅時には、疲れて寝てくれることもあります。
なかなか散歩を増やすことができない場合は、おもちゃや知育グッズの買い替えを検討したり、増やしてあげたりすることで、退屈な時間を減らしてあげましょう。
その際、なるべく長い時間、一人遊びができるよう工夫し、一緒に遊ぶ時間とメリハリをつけることで、犬の成長にもつながります。
また、舐め始めたら、静かに別の遊びにすり替えたり、コマンド(例:「おすわり」)に誘導し、うまくできたら、ご褒美をあげることも効果的です。
その際、舐めるのを辞めた時に渡すと犬にとって理解しづらいことがあるため注意しましょう。
あくまで、コマンドに対して上手にできたかという基準でご褒美を渡すことで、犬のしつけにつながります。
なかなか辞めてくれない時や、しつけの際、怒ってしまうと逆効果になることもあるので、焦らず冷静に対応してあげてくださいね。
時には、コミュニケーションやスキンシップを意識的に増やし、愛犬の要求を満たしてあげましょう。
動物病院に相談する目安
舐める頻度が高く、5分〜10分経っても辞めていない、皮膚に異常(赤み・腫れ・傷・脱毛など)がある場合は早めに動物病院を受診しましょう。
舐めることで出血や潰瘍ができている、歩き方に異常がある、元気や食欲がないといった症状が見られる場合も要注意です。
原因が分からず長期間続く場合や、過度なグルーミングが疑われる場合も、専門家の診断を受けることをおすすめします。
まとめ:飼い主にとっても嬉しい効果
愛犬が手をぺろぺろするのは「大好き!」のサインとして基本的に受け取っても問題ありません。
前半では、幸福ホルモンのオキシトシンについて記載しましたが、犬だけでなく、犬と接している人間の幸福度や健康度の向上に注目した研究もいくつか存在し、注目が集まっています。
時には、ストレスや体の不調が隠れていることもありますが、様子をよく観察して、環境を整えてあげたり、犬の成長の時間にあててあげましょう。
困った際には、病院に相談してアドバイスをもらうことも大切です。
愛犬も飼い主も適度にスキンシップをとって不安を解消し、家族みんなが幸せになると良いですね。
この記事の監修者

吉田萌 (NPO法人ドッグトレーナー2級)
国際動物専門学校 しつけ・トレーニング学科卒。
噛み・吠え癖の酷い元保護犬のビーグルを里親に迎えた事をきっかけに『褒めてしつける』を念頭に活動。 自身の経験を活かし、しつけイベントにて飼い主に寄り添ったトレーニング方法を指導。 ナチュラルペットフード・栄養学の知識にも精通。保有資格はNPO法人ドッグトレーナー2級の他に、しつけアドバイザー2級、愛玩動物飼養管理士、ドッググルーマー2級など。
資格
NPO法人ドッグトレーナー2級、しつけアドバイザー2級、愛玩動物飼養管理士、ドッググルーマー2級









